コロンビア出身のアーティストが繋ぐ南米伝統音楽とHip-hop
カナダのトロントを拠点とするコロンビア出身の音楽家、ベニー・エスゲーラ(Beny Esguerra)の『Northside Kuisi, A New Tradition, Vol. 3』は、南米の民族楽器と北米のヒップホップ文化を折衷した興味深い作品だ。
ビートボックス、ラップ、ターンテーブルなどヒップホップの要素が半分、残り半分はアルバムタイトルの由来にもなっているコロンビアの笛クイシやマチョと呼ばれる太鼓など、クンビア音楽やより広義のラテン音楽の要素が占める。これらの要素は一見水と油のように思えるが、この作品では驚くほどスムーズに混ざり合い、伝統的な楽器や舞曲と現代的なビートの境界を溶かしていく──そしてそれは同時に、国境の概念を溶かしたいというアーティストの想いにも通じていく。
難民の家庭に育った音楽家
ルベーン・“ベニー”・エスゲーラはコロンビアの首都ボゴタに生まれたが、幼少時に人権活動をしていた両親と共に政治難民としてカナダに移住。以降はトロントを拠点にマルチインストゥルメンタリスト/プロデューサー/詩人/教育者として活動し、“カナダのグラミー賞”とも呼ばれるジュノー賞にもノミネートされた経歴の持ち主だ。
今作は南アメリカから北アメリカへの大規模な難民の脱出、環境の変化、伝統的な楽器や儀式、現在まで続く人種差別と抑圧、そしてコミュニティの中で互いに協力し合う必要性といった問題を探求している。バンド名の「New Tradition Music」も誇張表現ではないだろう。