The Uzi Navon Legacy 『לכל החיים (The Experiences)』
イスラエルの特異すぎるバンド、ウジ・ナボン・レガシー(The Uzi Navon Legacy)の新譜『לכל החיים (The Experiences)』が登場した。アルバムタイトルはヘブライ語で“生涯”の意味。
もう本当に、変な方向へのこだわりの具合では現在活動中のバンドでは世界随一ではないだろうか。
かつて「ウジ・ナボンと知人たち」というバンド名で活動していた彼らはご存知のとおり、頑なに1970年代に活躍していた伝説的バンドという設定を崩さない。彼らの音源は2010年頃から活発に“発掘”され始め、今も新しい音源が続々と“発見”されている。どうしてこうも面倒臭いことをやるのか理解に苦しむが、“徹底的にやり切る”という方針には100%の好感が持てるし、その動向が気になるバンドである。
前作『בזמנו』(2020年)から2年、早くも彼らの3rdアルバムが登場した。デビュー作『Uzi Navon & Acquaintances』が2010年のリリースだったことを考えると、近年のライヴイベントや映像作品含め2020年以降の彼らの活動ペースはもはや異常である。これも時空の歪み所以なのだろうか…
さておき、やはり彼らの音楽は最高なのでまずは聴いてみてほしい。音楽性も録音の質感も、どこから聴いても70年代のファンクやパンクロックそのもの。過去作からの再収録もあり、彼らの魅力が濃縮された作品となっている。
ウジ・ナボン はじまりの物語(再掲)
※本セクションは過去記事『ハイファに空いた壮大な時空の穴、完璧すぎる時代錯誤「ウジ・ナボンと知人たち」』からの再掲です。
ウジ・ナボン──作曲者のクレジットでヨナタン・レヴィン(Yonatan Levin, יונתן לוין)という本名を知ることができる──はこのバンドのサウンドをイスラエルの国民的歌手アリク・アインシュタイン(Arik Einstein)とファンクの帝王ジェームス・ブラウン(James Brown)の混在物として定義している。
バンドは最大で12人という大編成。
彼らのバイオグラフィーには2010年のデビュー作リリースに際し、このような物語が綴られている:
ウジ・ナボンは6歳からピアノを弾きはじめ、10代で海外の「ロックンロール」「ガレージ」「リズム&ブルース」に関心を寄せ、曲を書きはじめた。当時イスラエル国内では珍しかったシンセサイザーも取り入れ、多くの“知人”たちとセッションを重ね、次第にバンドを形にしていき、1970年に最初のアルバム『Uzi Navon & Acquaintances』をリリース。瞬く間に大人気となり“ハイファからのセンセーション”の異名をとり、「ザック」という化粧品と製薬の会社のコマーシャルに起用されるまでになるが、すぐに同国が深刻な不況に見舞われ多くの失業者を出し、1970年代後半にはとどめを刺すようにザック社がアスベスト問題を引き起こすと、同社の顔であったウジ・ナボン&アクウェインタンセズもスポットライトに戻ることはできず、いつの間にか霧散した。
それから時を経た2000年代後半、かつてバンドと親しかったある人物が実家の荷物を整理していた際に彼らの忘れ去られた古いレコードを偶然見つけた。懐かしさのあまり、彼は“知人たち(バンドメンバー)”に連絡を試みたが、その誰もがこのバンドのことを忘れていた。
諦めきれない彼はメンバーの許可を得て「Myspace」にウジ・ナボン&アクウェインタンセズのページを開設。徐々に露出が増え、デビュー作の“再リリース”に至った──。