タンディ・ントゥリ新譜『Blk Elijah & The Children of Meroë』
南アフリカのピアニスト/作曲家/シンガーのタンディ・ントゥリ(Thandi Ntuli)の最新作『Blk Elijah & The Children of Meroë』は、独自性に富み総じてクオリティの高い近年の南アフリカのジャズの中でも飛び抜けて素晴らしい作品だ。
アルバムは(1)「Izibongo」からアフリカらしい三連符系の複雑なリズムで、アフリカの伝統音楽とジャズのハイブリッドな面白さを最大限に発揮。タンディ・ントゥリはピアノやエレクトリック・ピアノは勿論、これまでの作品以上にヴォーカルを担い、南アフリカの女性ピアニスト兼シンガーというアイデンティティでアピールする。…かと思えば(2)「Cold Winds」では実験的・現代音楽的なアプローチがあったり、エレクトリック・ギターをフィーチュアした(3)「Amazing Grace」(有名な曲のカヴァーではなく、彼女のオリジナル)では幾分キャッチーさも意識した構成とするなど、アルバム全編でタンディ・ントゥリという稀有な才能の幅広さを存分に感じさせてくれる。
トランペットやシンセの音色も印象的なインスト(4)「Portal Into A New World」、柔らかなフルートをフィーチュアしたインスト(5)「Go Gently As The Sower Reaps」、そして終盤の2曲も、どれも丁寧に丁寧に練り込まれた音作りが素晴らしく、タンディ・ントゥリのアーティストとしての感性の美しさが伺える。歌詞は英語を交えつつも南アフリカ周辺地域に独特なクリック音が特徴的な言語の使用もあり、ローカルな伝統の継承、過去のさまざまな遺産を受け継ぎつつ新たなチャレンジを盛り込んだ、ほとんど完璧な作品となっている。
Thandi Ntuli 略歴
タンディ・ントゥリは1987年南アフリカの行政の中心地であるプレトリア生まれ。家系にはアフロ・サイケジャズバンド「Harari」の創設者兼バンドリーダーだった叔父セルビー・ントゥリ(Selby Ntuli)や、1940年代の南アフリカの文化の中心地ソフィアタウン(Sophiatown)で歌っていた祖父レヴィ・ゴドリブ・ントゥリ(Levi Godlib Ntuli) がおり、彼女自身も幼少時から生活の中心に音楽が存在していた。
4歳のときにクラシック・ピアノのレッスンを受け始め、十代の後半でジャズへの強い関心を抱きケープタウン大学でジャズ・パフォーマンスの音楽学士号を修了。
独自リリースのデビューアルバム『The Offering』(2014年)、2ndアルバムの2枚組『Exiled』(2018年)を通じ、彼女の音楽は隆盛極める南アフリカのジャズシーンにおいて際立つ評価を確立している。