オーストラリアの“負の歴史”を強く照らす。サックス奏者スティーヴン・ビスのデビュー作

Stephen Byth - Reparations

サックス奏者スティーヴン・ビス、オーストラリアを強く想うデビュー作

オーストラリア出身のサックス奏者、スティーヴン・ビス(Stephen Byth)のデビュー作『Reparations』。「賠償金」という軽くはないタイトルには、先住民族アボリジニの人々に対する彼の想いが込められている。

(1)「Australiana (Part One)」ではゆったりとした音符と不協和音で自然の厳しさと美しさを表現。
(2)「Adani」はクイーンズランド州での鉱山開発を計画するアダニ社への抗議を主題とする。スティーヴン・ビスによるテナーサックスと、ダン・エルバート(Dan Elbert)のアルトサックス、マット・スタッブス(Matt Stubbs)のバスクラリネットの混沌ともつれる絡み合いが鬼気迫る名演だ。

オーストラリアでしばしば発生する山火事に触発された(3)「This May Be Goodbye」、弱き立場の者が受ける痛みへの共感を示す(4)「Pain to Progress」と続き、(5)「Meaningful Decision(意味ある決断)」、(6)「Meaningful Action(意味ある行動)」では力強いハーモニーやリズムを通じて人々を勇気づける。

(4)「Pain to Progress」のライヴ演奏動画。アルバム収録版とは編成は異なる。

演奏者は各国から集った志を同じくする仲間たちだ。トルコとの暗い歴史を持つアルメニアからは注目の新鋭ピアニスト、エッサイ・カラペティアン(Yessaï Karapetian)が参加。テキサス州出身で幼少時からテキサス・フィドルにどっぷりと浸かってきたヴァイオリニストのミニー・ジョーダン(Minnie Jordan)など、バークリー音楽大学で出会った若い演奏家たちとの共演もスリリングだ。

16世紀半ばにヨーロッパ人がやってきて以降何世紀にもわたる差別や虐待、抑圧に晒されてきたオーストラリア先住民。
本作でこの若きサックス奏者/作曲家は、先住民やオーストラリアの自然界に対する負債を返済するために、すべてのオーストラリア人が自分たちの役割を果たすべく行動を起こすことを強く促している。経済的な支援だけではない。過去から現在までの繋がりをよく学び、法律の改正も含め事実に基づいた継続的な活動が必要だということを力強く表現する注目すべき作品である。

Stephen Byth – tenor saxophone, clarinet (1, 3, 7, 8), flute (3, 7), programming (1, 8)
Nathan Kay – trumpet (2, 4, 5, 6)
Dan Elbert – alto saxophone (2, 4, 5, 6)
Matt Stubbs – bass clarinet (1, 2, 5, 6, 8), clarinet (4)
Minnie Jordan – violin (1, 2, 7, 8)
Sheila Del Bosque Fuentes – flute (4)
Yessaï Karapetian – piano
Eli Heath – upright bass
Tyson Jackson – drums, percussion

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