芸術への飽くなき探求を続けるゼー・ミゲル・ウィズニキ、詩情溢れる美しい傑作『Vão』

Zé Miguel Wisnik - Vão

知性の音楽家ゼー・ミゲル・ウィズニキ新作『Vão』

ブラジルの音楽家、ゼー・ミゲル・ウィズニキ(Zé Miguel Wisnik)の新作『Vão』。近年は共演作が多かったから、ソロ名義としては実に2011年のIndivisível以来となる。
盟友ナ・オゼッチ(Ná Ozzetti)が控えめながら実に効果的なデュオを重ねる(1)「O Jequitibá」から、まさに老練と呼ぶべき、人生や社会の悲喜交交が入り混じった絶妙なマーブル模様のような色合いの音楽を連ねていく。(2)「Chorou e Riu」にはモニカ・サウマーゾ(Mônica Salmaso)が寄り添い、(3)「Romã」では娘のマリーナ・ウィズニキ(Marina Wisnik)が年老いた父を支えるようにメイン・ヴォーカルを取る。

独特の詩的な感性で綴られたあまりに美しい曲(1)「O Jequitibá」。
サンパウロのパウリスタ通りにあるトリアノン公園の樹齢100年の大樹ジェキチバの視点から見た人間社会を歌っている。

(5)「Estranha Religião(奇妙な宗教)」の作詞を手掛けたのはゼーの息子で建築学や現代美術の大学教授、ギリェルミ・ウィズニキ(Guilherme Wisnik)。つづく(6)「Iara」はファッション・デザイナーであるゼーの娘イアラ・ウィズニキ(Iara Wisnik)に捧げられている。

(7)「O Chamado e a Chama」では2022年1月に亡くなったエルザ・ソアレス(Elza Soares)がゲスト参加し、出番こそ少ないものの齢約90とは思えない圧巻の声を残していく。

至高の芸術音楽

この作品は聴けば聴くほどに感情の奥底を揺さぶられるような感覚に陥る。
アルバムタイトル「Vão」は虚空、徒労といった意味だが、あまりに知的で豊かなサウンドは聴くものの空虚な心を清らかな水のようにごく自然に満たしてくれるようだ。

(11)「Terra Estrangeira」で共演するセルソ・シン(Celso Sim)はサンパウロの歴史ある劇場および劇団、テアトロ・オフィシナ(Teatro Oficina)に所属していた音楽家/舞台俳優だ。ゼー自身も同劇場にいくつかの楽曲を提供したことがある。
この曲に象徴されるように、ゼー・ミゲル・ウィズニキという稀代の才人の音楽には、人々による芸術を至上とし常に先進的な表現手法でブラジルの文化を見つめ、1960年代後半のトロピカリア運動などにも影響を与えた同劇団の精神が今も息づいている。

Zé Miguel Wisnik 略歴

ゼー・ミゲル・ウィズニキ、本名ジョゼ・ミゲル・ウィズニキ(José Miguel Wisnik)は1948年サンパウロ州サン・ヴィセンチ生まれ。サンパウロ大学では文学を学び、修士号と博士号を取得している。
クラシックピアノを長年学んでおり、17歳の頃にサンパウロ市立管弦楽団で初めてソリストとしてサン=サーンスを演奏。
作曲自体は文学部在学中から始め、1968年、20歳の頃に彼が書いた曲「Outra Viagem」を歌手アライヂ・コスタ(Alaíde Costa)がTVで歌っているが、自身の音楽家としてのCDデビューは1992年の『José Miguel Wisnik』と決して早くはなかった。

彼のつくる楽曲や詞は博識に裏打ちされており、政治や社会、人々や芸術の在り方を問うものが多い。高度な建築や美術のように築かれた音楽は圧倒的な美しさを持ち、畏敬の念を抱かせる。

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