世界一凶悪なピアノトリオ!? イスラエルの鬼才ロン・ミニス新作は怒涛の轟音プログレ・ジャズ

Ron Minis - Smart Phones Stupid People

ロン・ミニス新作!『Smart Phones Stupid People』

“青髭のティグラン・ハマシアン”ことイスラエルのピアニスト/マルチ奏者/作曲家ロン・ミニス(Ron Minis)が前作から3年ぶりとなる待望の新譜『Smart Phones Stupid People』をリリースした。今作はドラムスにヨゲフ・ガバイ(Yogev Gabay)、ベースにダニエル・ハーレフ(Daniel Harlev)という俊英を迎え、見かけ上の編成こそシンプルなピアノトリオだが、複雑な変拍子やポリリズムを駆使したロン・ミニスらしいプログレッシヴな音の洪水を浴びせかける。

アルバムはいきなりメタルなギターリフから始まる(1)「Even More Wives」で幕を開ける。13拍子。ヨゲフ・ガバイが叩き出す強力なビートで躍動したかと思えば中東ジャズ特有のエキゾチックなフレーズが続いたり、抒情詩の中で夢遊するようなリリカルなアドリブを見せたりと変幻自在のアンサンブルが素晴らしい。この曲のイントロのギターリフはロン・ミニスがかつてギタリストとして組んでいたパンクロック・バンドのために作ったもので、当時は「リフが重すぎる」という理由からボツになっていたもののようだ。

(1)「Even More Wives」のライヴ演奏動画。

端切れの良いピアノが印象的な(2)「Anguinous」、さながらピアノで弾くデスメタルな(3)「Rasha on Ice」など脳天を直撃するサウンドを連発する。

(4)「Zalow」は今作のハイライトのひとつで、ピアノトリオとは思えないほどヘヴィーで驚異的なグルーヴのアンサンブルだ。自称“世界一凶悪な(brutal)なピアノトリオ”の本領発揮ではないだろうか。
YouTubeのキャプションで紹介されていたエピソードも彼ららしくて面白いので紹介したい。

2年前、僕らはルーマニアのジャズフェスティバルに出演した。司会の女の子が、自分はもともとZALOWという町の出身だと言っていた。その単語を声に出してみて、もし今までに聞いたことのないほど凶悪な響きでなかったなら教えてほしいね!

彼女がその2つの音節を口にした瞬間、ヨゲフは僕を見つめ、僕らはすぐにその意味を理解したんだ。これは、これまでに書かれた最も凶悪なジャズ作品のタイトルに違いない、と。

それから2年が経った。僕らは同じフェスティバルでZALOWを初演している。僕がマイクを握って「…で、ここにいる人でZALOWの人は?」と尋ねると、どうやら全員がそうだったようで、観客は割れんばかりに盛り上がった!その日、僕はフェスティバルに参加するすべてのルーマニア人に、この曲をザロウ市の国歌として宣言するために全力を尽くすこと、そしてこの曲がすべての高校の休み時間のテーマになるまで休むことはないと誓った。

Ron Minis – Zalow

(4)「Zalow」。彼らが演奏でルーマニアを訪れた際に聞いた同国の街の名にインスパイアされている。

イスラエル・ジャズの異端児 Ron Minis

ロン・ミニスはテルアビブを拠点とする作曲家で、楽器は6歳の頃から始めたピアノをメインとしながら、ギターやベース、ドラムスも演奏するマルチ奏者。
ティグラン・ハマシアンの超難曲「Entertain Me」を一人で全パート完コピという恐るべき才能で知られ、YouTubeでも様々な実験精神溢れる音楽動画で話題となるなど多数のフォロワーを抱えている。

2014年に70〜80年代のイスラエル・ロックの影響を受けたアルバム『נקודת אור』でデビュー。2018年の2nd『Pale Blue Dot』頃から現在のプログレに傾倒した作風へと変化し人気を博し、ジャンルを超越した異色の音楽家として地位を確立しつつある。

ティグラン・ハマシアンの名曲「Entertain Me」を一人で全パート完コピという凄まじい動画。
20/16 + 15/16拍子という基本音形で進行しつつ、ハイハットやスネアドラムは別のリズムを刻み、全体では256/16拍子を形成しているという恐ろしい難曲である。

Ron Minis – piano, guitar, synth, effects
Yogev Gabay – drums
Daniel Harlev – double bass

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