2022年を象徴する一枚。ウクライナ情勢への憂いと怒りに満ちたゴーゴル・ボルデロ新譜

Gogol Bordello - SOLIDARITINE

激動の2022年を、元ウクライナ難民ユージーン・フッツが表現する

プーチンによる母国への侵略行為という危機的な事態を受け、もともとウクライナ難民として米国に渡ったユージーン・フッツ(Eugene Hütz)がとった行動は早かった。彼はすぐにレス・クレイプール(Les Claypool)と連絡を取り合い、さらにはショーン・レノン(Sean Lennon)やスチュワート・コープランド(Stewart Copeland)、そして自身のバンドメイトであるロシア出身のヴァイオリン奏者セルゲイ・リャブツェフ(Sergey Ryabtsev)らも巻き込んで、祖国を蹂躙しようとする“徘徊する巨大な熊”と闘うゼレンスキー大統領への支持を表明する楽曲「Zelensky: The Man With the Iron Balls」を4月に発表。命を懸けて国と国民を守ろうと闘いを続けるゼレンスキーを“鉄のタマを持つ男”と彼らしい表現で称えた。

もちろん、彼の行動はそれだけで終わるはずがなかった。
ユージーン・フッツは2017年の『Seekers and Finders』以来新作のリリースが止まっていた自身が率いる移民たちのバンド、ゴーゴル・ボルデロ(Gogol Bordello)を動かし、5年ぶりの新譜『SOLIDARITINE』をリリース。バンド史上もっとも強い“怒り”をもって、この絶望的な世界に抗い続ける姿勢を見せている。状況がそうさせているのか、今作はかなり切迫感があり……強烈だ。

(11)「Fire on Ice Floe」

ジプシーパンクの雄、ゴーゴル・ボルデロ 5年ぶりの新作

アルバムの全体的なサウンドは移民問題を歌った彼らの代表曲「Immigraniada (We Comin’ Rougher)」などを彷彿させる感情的で衝動的なパンクだ。
(1)「Shot of Solidaritine」では彼ららしい短調・三連符のリズムをベースに、シャウトするヴォーカル、“ジプシーパンク”を特徴づけるヴァイオリンをフィーチュアした硬派な音で連帯を訴えかける。

アルバムからの最初のシングル(2)「Focus Coin」

(3)「Blueprint」はワシントンD.C.のパンクバンド、フガジ(Fugazi, ベトナム戦争でのアメリカ兵の隠語がバンド名の由来)の曲のカヴァー。

自身の7年間の難民生活経験をもとに描いた(8)「Take Only What You Can Carry」も印象的だ。歌詞には英語以外にウクライナ語も混ざり、“一番大切な、持てるものだけを持って難民キャンプへ行け”というメッセージが胸を打つ。ラストは「私は死者のリストには載っていない」という歌詞が繰り返される。

(8)「Take Only What You Can Carry」

(10)「Forces of Victory」は2007年のアルバム『Super Taranta!』のアップデート・ヴァージョン。ここではウクライナ・ハルキウ(ハリコフ)の詩人セルヒー・ジャダン(Serhiy Zhadan)と、同じくウクライナのエレクトロ・フォークバンド、Kazka が演奏に参加。この曲はロシアによるウクライナ侵攻に反対を表明するアーティストたちによるコンピレーション盤『Artdopomoga Ukraine Vol.2』にも収録され、その収益はウクライナ支援に使われている。

ユージーン・フッツは語る。

人類は突然、パンデミックや戦争のような問題に直面した。そんなときこそロックが必要だし、俺たちが最高のパフォーマンスを発揮できる時なんだ。このアルバムは、まさに善意の人たちを結びつけるためのものだ。今、ウクライナの状況を取り上げないようなアートを発表することは、かなり卑劣なことだと思う。

tower.jp

(10)「Forces of Victory」

戦争というものは、奪われる必要のない命が奪われ、望まぬ土地で土になることを余儀なくされ、将来の何世代にも渡って悲しみと禍根を残す。こんなことが起こる社会は、何かが決定的に間違っている。

Eugene Hütz & Gogol Bordello 略歴

ゴーゴル・ボルデロのフロントマンであるユージーン・フッツ(Eugene Hütz, “ユージン・ハッツ”と表記されることも)は1972年ソビエト連邦(当時)ウクライナ・キーフ州ボヤルカ生まれ。ウクライナでバンドを始めていたが、1986年、14歳のときにチェルノブイリ原子力発電所事故が発生。一家は故郷を離れることを余儀なくされ、以降7年にわたって東欧各地の難民キャンプを転々とする。ポーランド、ハンガリー、オーストリア、イタリアでの生活を経て、1993年に家族でアメリカのバーモント州に移住した。
ここでも彼はジプシー音楽を軸に各国の民族音楽を取り交ぜたパンク・バンドで活動。1997年にニューヨークに移住し、1999年に多文化、多国籍、多民族、多言語の音楽家たちで構成される“ジプシーパンク”バンド、ゴーゴル・ボルデロを結成した。

マドンナ(Madonna)がユージーン・フッツに惚れ込んで彼を主演に抜擢した映画『ワンダーラスト』を制作したり、ファッションブランドのGucciがユージーンをモデルにしたラインを発表したり、2015年5月のウクライナ版Vogueではエストニアのファッションモデルと共に表紙を飾るなど、カルチャー面でも世界的に話題を振りまいている。

Gogol Bordello というバンド名はウクライナ出身の小説家ニコライ・ゴーゴリ(Мико́ла Васи́льович Го́голь, 1809 – 1852)の苗字と、同国語で売春宿を意味する「Bordello」に由来する。ユージーンが弾くナイロン弦ギターやヴァイオリン、アコーディオンなど一般的なパンクバンドとは異なる編成が特徴的で、東欧の音楽性を反映した“ジプシー・パンク”のスタイルで一世を風靡。世界的な影響力を持つバンドだ。

Gogol Bordello :
Eugene Hütz 🇺🇦 – lead vocal, guitar, keyboards, percussion
Sergey Ryabtsev 🇷🇺 – violin, backing vocals
Boris Pelekh 🇷🇺 – guitar, backing vocals
Pedro Erazo 🇪🇨 – vocals, percussion, charango, marimba
Ashley Tobias 🇺🇸 – percussin, backing vocals
Gill Alexandre 🇫🇷 – bass
Korey Kingston 🇺🇸 – drums, percussion

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