社会を深く憂う現代のフラワーチャイルド。ノルデスチの人気SSWシコ・セーザル新譜『Vestido de Amor』

Chico César - Vestido de Amor

シコ・セーザル、社会への強いメッセージを発する新作

ブラジルの北東部音楽を代表するシンガーソングライター(SSW)、シコ・セザル(Chico César)が新作『Vestido de Amor』をリリースした。2019年の『O Amor É um Ato Revolucionário』以来となる10枚目のアルバムで、今作も随所に北東部(ノルデスチ)音楽に由来するリズムと熱情に溢れ、文化を愛するアーティストらしい精神性に満ちたブラジリアン・ロックの傑作に仕上がっている。

サウンド面では今作もアフロ・ブラジル音楽のルーツへの探究心が強く現れており、マリのSSWサリフ・ケイタ(Salif Keïta)が今も健在な強靭な歌声を披露する(5)「SobreHumano」や、コンゴの音楽家レイ・レマ(Ray Lema)が参加した(7)「Xangô, Forró e Ai」、コラの音色が響く(10)「Pausa」などは特にアフリカ色が強い。ビリンバウやパンデイロの強烈なリズムとサイケデリックなギターが象徴的な(3)「Reboliço」も素晴らしいし、かつて「Mama Africa」という大ヒットを生み出したシコ・セーザルらしい魅力的な音ばかりだ。

(2)「Vestido de Amor」は心に愛を持つことの重要性を歌う。

政治的・社会的メッセージも強い。ボウソナロ大統領とその支持者たちを痛烈に批判する(6)「Bolsominions」は特に強烈な1曲だ。タイトルはボウソナロ大統領の政策に反対する人々がその支持者たちを指していう侮蔑的なニュアンスを含んだ単語で、あらゆる面で人々の分断を生む現在のブラジルにおける愛に欠如した政治を憂えている。

強いボウソナロ政治への批判を表明する(6)「Bolsominions」のMV

ピンクのジャケットを着、髪にはいくつもの花を飾りつけたアルバム・ジャケットでは現代のフラワーチャイルドを象徴的に表現。ブラジルに限ったことではないが、先の見えない不安の中で人々が互いに疑心暗鬼になる社会への強い哀しみもアルバム全体の背景には漂う。

Chico César 略歴

シコ・セーザルは1964年ブラジル・パライバ州生まれ。8歳でレコード店で働き始め、その翌年にバンドを結成した。16歳で州都ジョアン・ペソアに移り住み、ジャーナリズムを学ぶ傍ら前衛的な詩で知られるJaguaribe Carneというグループで活動。パライバ連邦大学でジャーナリズムを学び、21歳でサンパウロに移住しジャーナリストとして働きながら作曲やライヴ活動を行い徐々に人気を拡大。1995年にライヴアルバム『Aos Vivos』でデビュー、翌年にはスタジオ盤『Cuscuz Clã』をリリースし、収録された「Mama Africa」や「Á Primeira Vista」が大ヒットした。

彼の作品は社会批判とユーモアがミックスされており、北東部の民間伝承の音楽的影響が強く、さらにはそのルーツであるアフリカの音楽文化や、欧米のロックといった要素を融合させたユニークなものとなっている。

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