ショパンの叙情性とラテンの情熱を併せ持つ女流ピアニスト、マリアリー・パチェーコ新作

Marialy Pacheco - Reload

キューバのピアニスト、マリアリー・パチェーコ『Reload』

2012年のモントルー・ジャズ・フェスティバル「ピアノ・ソロ・コンペティション」で女性として初めて優勝したことで知られるキューバ出身のピアニスト/作曲家、マリアリー・パチェーコ(Marialy Pacheco)の通算12枚目となる2022年新譜 『Reload』は、ピアノトリオを軸に多様なゲストを迎え入れた華やかなラテン・ジャズ作品だ。

クラシックで培われた繊細なテクニック、ショパンのような叙情性、大胆でダイナミックなジャズの即興、そして何よりもキューバの文化的・精神的なバックグラウンドが強く現れた音楽的な特徴など、本作も最高に楽しい作品に仕上がっている。

1950年代のキューバのヒット曲のカヴァーである(3)「Oye El Carbonero」はイスラエルのベーシスト、アヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)とのデュオで、この作品中でも随一の緊張感、美しさ、そして楽しさを伴うトラックとなっている。二人はインスタグラムを介してメッセージのやり取りを開始し、録音のたった2時間前に初めて実際に会ったのだというから驚きだ。アヴィシャイ・コーエンのこのラテン風味の演奏は珍しいと思ったが、よく考えてみれば彼はチック・コリアのトリオへの参加がキャリアの最初のターニング・ポイントだったのだから、久々のラテン音楽のプロジェクトへの参加は彼にとっても刺激的な時間だったのだろう。

アヴィシャイ・コーエンとのデュオで聴かせる(3)「Oye El Carbonero」。
後半はマリアリーとアヴィシャイがいちゃつく模様が収録されている。

今作のもうひとつのハイライトと言えるのが(5)「Cartagena Bliss」だ。ドイツを代表するトランペット奏者ニルス・ヴュルカー(Nils Wülker)がゲスト参加。この曲ではマリアリー・パチェーコの曲作りはラテン的な情熱よりも理知に寄った印象で、ニルス・ヴュルカーのクールで無機的なトランペットがよく映える。

(5)「Cartagena Bliss」

そして、今作の中で個人的にもっとも推せるのが(8)「Paseo en 6/8」。マリアリー・パチェーコ作曲のこの曲は叙情的な曲調や緻密なアンサンブルが実に見事で、何度も繰り返し聴きたい最高のジャズとなっている。

(8)「Paseo en 6/8」

Marialy Pacheco プロフィール

マリアリー・パチェーコは1983年キューバ・ハバナ生まれ。両親、叔母が音楽家という音楽的に恵まれた環境で育ち、7歳でハバナのアレハンドロ・ガルシア・カトゥーラ音楽院に入学するなど幼少期から音楽の教育を受けた。母の合唱団のピアノ伴奏者として早くからドイツを訪れ、2004 年にはブレーメンの合唱団オリンピックで 2 つの金メダルを獲得。

2013年にドイツに移住。
2022年はキューバの伝説的ピアニスト、オマール・ソーサ(Omar Sosa)との実況録音によるデュオ・アルバム『MANOS (En Vivo)』をリリースしている。

Marialy Pacheco – piano, vocal
Juan Camilo Villa – electric bass, double bass
Miguel Altamar De La Torre – drums, percussion

Guests :
Avishai Cohen – bass
Karl Perazzo – timbales
Nils Wülker – trumpet
Rhani Krija – percussion
Sebastian Nickoll – congas, batas

Marialy Pacheco - Reload
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