圧倒される“カミカゼの震え”。ジブチの70代歌手、ヤンナ・モミナが歌うアファル族の道

Yanna Momina - Afar Ways

水上の小屋で記録された、ジブチの70代女性ヤンナ・モミナの歌

東アフリカ・ジブチ共和国の1948年生まれの女性、ヤンナ・モミナ(Yanna Momina)のデビュー・アルバム『Afar Ways』の音楽は衝撃的だった。曲を書き歌うという彼女の行為自体だけを見ると肩書きはシンガー・ソングライターと言ってよいかもしれないが、彼女にとって歌とは誰かのためのパフォーマンスではなく、ごく普通の生活の一部だ。ヤンナ・モミナは、過小評価されている世界中の音楽家たちを発掘し紹介することに使命感を抱くプロデューサーのイアン・ブレナン(Ian Brennan)によって紹介された。

“砂漠のブルース”ティナリウェン(Tinariwen)を“発見”したことでも知られるイアン・ブレナンが“カミカゼ・ビブラート”と呼ぶヤンナの歌声は、一般的な歌のイメージとはかけ離れ、苦しみにもがき叫ぶようでもあり、圧倒されるほどの個性を持つ。

演奏は録音スタジオではなく、地元の海の上にある高床式の小屋で行われ、ほぼフィールド・レコーディングとなっている。その空間にはヤンナ・モミナと、パーカッションやギター、コール&レスポンスのヴォーカルを担当する少数の音楽仲間たち、そして録音機材を持ち込んだイアン・ブレナンといったごく少人数しかいない。緊張感が漂うが、録音が進むにつれてリラックスした雰囲気も感じさせる。一貫してヤンナ・モミナの歌声は力強く、命を振り絞って歌っているかのようだ。

アルバム『Afar Ways』のティーザー動画。

とにかく、聴いているうちにどんどんと惹き込まれていく、おそろしいほどの生命力を感じさせる歌だ。
歌詞の内容は詳しく分からないが、ラストでアカペラで歌われる(8)「My Family Won’t Let Me Marry the Man I Love (I Am Forced to Wed My Uncle)」など、タイトルが全てを語り尽くしているように思われる。録音日の最後に仲間たちに楽器を下ろすように指示したあと歌われたこの曲は、仲間たちも初めて聴く曲だったという。
世界中の多くの人々と同じように、彼女もまた手に負えないほど複雑な人間社会の中で苦しみながら、それでも懸命に生きようとしてきたのだろう。

「音楽は人に見せびらかすためのものではない」と彼女は断言する。テレビなどの娯楽がないため、ほとんどの場合、音楽は毎晩自分たちの楽しみのために歌っているものだという。
アルバムは2018年に録音された。潮が満ち、水に囲まれた高床式の茅葺き小屋の軋みや波の音も妙に生々しく、さまざまな想いが去来する。ここには確かに、“活きた音楽”がある。

(7)「The Donkey Doesn’t Listen」は繰り返されるリズムの中で、彼女の歌はときに笑い声も伴い、実に楽しそうだ。きっと今夜もアフリカの角のどこかで、彼女と、彼女を取り囲む仲間たちの歌と音楽が響いているのだろう。

Yanna Momina – lead vocals (except 6), percussion
JP – rhythm guitar, vocals, percussion
Hussan Jean – calabash, percussion, background vocals
Andre Fanazara – lead guitar, background vocals, percussion, lead vocals (6)

参考リンク

イアン・ブレナン インタビュー

Bandcamp

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