東欧ジャズのエキゾチズム×バッハの対位法。ボスニアのピアニスト、サーミル・フェイジッチ

Samir Fejzic - Strast

ボスニアのピアニスト、サーミル・フェイジッチ『Strast』

クラシックの確かな基礎と、バルカン半島からアゼルバイジャンまでの地域特有のジャズを高い次元で融合させるボスニア・ヘルツェゴビナのピアニスト/作曲家、サーミル・フェイジッチ(Samir Fejzic)の7枚目のアルバムとなる 『Strast』(2020年)。彼が敬愛するムガーム・ジャズの巨匠ヴァギフ・ムスタファザデを思わせる(1)「Passion」から、芳醇なオリエンタル・ジャズの香りが漂う絶品だ。

どんなに速いパッセージだろうと、とにかく粒が揃いまくったピアノが印象的。終始タイトなリズムの上でエキゾチックに舞うようなピアノが素晴らしい。楽曲もジャズだったりバロック音楽の影響の濃いものだったりとバリエーション豊かで、ピアノトリオを中心としつつもサーミル・フェイジッチ自身のヴォーカルやストリングスの使用も。彼自身、音楽学校で対位法を教えているというだけあって自在に掛け合う右手と左手のフレーズの動きにも注目だ。

(1)「Passion」

(7) 「Jazzoro」は今作の中でもっともジャズ/フュージョン色が強い1曲だが、やはり東欧や中東的な旋律が随所に現れ耳を楽しませてくれる。適度にキャッチーで、オリエンタルな感覚を持ったジャズとして最高の演奏だと思う。

(7)「Jazzoro」

(8)「Midnight Tango」はフルートのエディナ・サディコヴィッチ(Edina Sadiković)とのデュオ。ここぞという場面で薄めにかけられたフルートのエコーもとても効果的だ。

アルバムには2曲、J.S.バッハに捧げられた演奏も。
(5)「On Bach’s Way」はオリジナルで、サーミル・フェイジッチと彼の教え子でもあるベースのディノ・マンガフィッチ(Dino Mangafić)によって編曲されている。クラシックのジャズ化の先駆者ジャック・ルーシェを思わせるタイトなバロック・ジャズとなっており、対位法をふんだんに用いた技法で書かれている。
(9)「Rondeau」はJ.S.バッハ自身の楽曲をアレンジしたもので、彼の音楽的なルーツが垣間見える。

(5)「On Bach’s Way」

Samir Fejzic プロフィール

サーミル・フェイジッチはボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ出身。サラエボの音楽アカデミーで作曲を学び、1998年に卒業しました。以後、ジャズピアニストとしての音楽家活動のほか、音楽学校でルネッサンスとバロックの時代の対位法の講師としても活躍している。
彼はまた伝統的なボスニアの音楽遺産を保存することにも情熱を捧げており、多数の伝統的なボスニアの曲をアレンジし様式化し、ボスニアの音楽教育者連盟によって最も重要な憲章を受賞するなど、現在のボスニアで最も重要な音楽家の一人と評されている。

2008年に自身のバンド「Samir Fejzic Band」を結成し、最初のアルバム『Bosnian Songs for Voice and Trio』をリリース。

Samir Fejzić – keyboards, vocal
Dino Mangafić – bass, electric guitar (3)
Zlatan Begić – drums
Edina Sadiković – flute (8)
Darko Hrgić – bass (3)

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