北欧ジャズ名トリオとオランダの古楽オーケストラ、夢のような共演作『Just Ignore It』

Lars Danielsson, Leszek Możdżer & Zohar Fresco - Just Ignore It

モジジェル/ダニエルソン/フラスコ&ホラント・バロック共演作

ポーランドのピアニスト、レシェック・モジジェル(Leszek Możdżer)と、スウェーデンのベーシスト、ラーシュ・ダニエルソン(Lars Danielsson)、そしてイスラエルの打楽器奏者ゾハール・フレスコ(Zohar Fresco)。 長らく北欧ジャズのシーンを牽引してきたこの3人がオランダの室内楽集団ホラント・バロック(Holland Baroque)を迎え録音した稀有な室内楽×北欧ジャズのハイブリッド作品『Just Ignore It』(2021年)。

各々が異なる文化を背にするレシェック・モジジェル、ラーシュ・ダニエルソン、ゾハール・フレスコのトリオは、これまでに3枚の作品を残している。『The Time』(2005年)に始まり、『Between Us and the Light』(2006年)、『Polska』(2013年)はいずれも世界的に大ヒットし、ヨーロッパ・ジャズの名作と評価されているが、今作はこれまでの彼らの作品とは少し毛色が異なっている。
共演するホラント・バロックは古楽器で中世の室内楽を再現する楽団で、レシェック・モジジェルとは2017年に出会い2017年に共演作『Earth Particles』を発表している。その成功を経て次のチャレンジがレシェックの盟友二人を迎えてのよりジャズ色を強くした今作というわけだ。

(1)「Villstad」から、その試みが正しい選択だったことを証明される。クラシカルな響きのオーケストラにラーシュ・ダニエルソンのピチカート奏法によるダブルベースが加わりさらに低音は温かな深みを増し、ゾハール・フレスコの強烈なパーカッション(後半のソロも圧巻だ)はエキサイティングなグルーヴを生み出す。

中東音楽由来の複雑な奇数変拍子(例えば7/8拍子の(2)「Nikita’s Dream」、9/8拍子の(5)「Stilla Storm」)にクラシックの音楽家たちは少し苦労したというエピソードも語られているが、こうしたリズムのスパイスも本作に深みを与え、レシェックの詩情溢れる流麗なピアノや北欧らしい抒情的なラーシュのベースラインと見事に融合し、音楽を深化させている。

ピーター・ガブリエルのヒット曲のカヴァー(8)「Don’t Give Up」

子どもたちの掛け声が可愛らしい(9)「Tineketta」は、ホラント・バロックのチェンバロ奏者であるティネケ・スティーンブリンク(Tineke Steenbrink)を元気づけるためにレシェック・モジジェルが書いてきた曲だという。チェンバロの録音はスタジオの隔離されたブースで行われたが、通常クラシックのオーケストラではそのような録音方法は採られないため彼女は最初ひどく困惑していたとのことで、ヘッドフォンを通して他の演奏を聞きながらの録音は苦痛だったようだ(子どもたちが応援するこの曲で彼女が笑顔になってくれていることを願いたい)。

アルバムには3人のオリジナルのほか、イングランドのSSWピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)のカヴァーである(8)「Don’t Give Up」を収録。この曲は失業者が急増した80年代当時のイギリスの世相を反映し大ヒットした曲だが、ここではタイトルの後ろにアルバムタイトルにも採用された「Just Ignore It」をいう言葉が加えられている。レシェック・モジジェルによると、この言葉は昨今のメディアが垂れ流す音楽の質に対する苦言であるらしいが、ピーター・ガブリエルの曲と結びつくことによって彼らの誇りをまだ失うつもりではないことを強調する。“諦めるな、ただ無視しろ”──。

特筆すべきは、本作にはよくありがちな“著名な音楽家がサウンドを豪華にするためにオーケストラを呼んでバックで演奏してもらいました!”的な陳腐さが全く感じられないことだ。アレンジも演奏もホラント・バロックのスタイルが尊重され、トリオによる軽やかな即興のスタイルに西洋音楽が歴史的に積み重ねてきた豊かな音楽の響きを丁寧に縫い合わせるように融合させている。

Lars Danielsson – double bass
Leszek Możdżer – piano
Zohar Fresco – percussion

Holland Baroque :
Judith Steenbrink – violin
Tineke Steenbrink – cembalo, organ
Tomasz Pokrzywiński – cello
Matteo Rabolini – percussion
Michał Bąk – contrabass
Chloe Prendergast – violin
Filip Rekieć – violin
Katarina Aleksić – violin
Dasa Valentova – violin, viola
Emma van Schoonhoven – violin, viola
Marta Jiménez – violin, viola
Anna Jane Lester – violin, viola
Stefano Rossi – violin, viola
Rodney Prada – viola da gamba
Kim Stockx – fagot
Christoph Sommer – lute, guitar, theorbo

Sopot Music Theatre’s boys choir – voices (9)

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