STR4TA、“完璧すぎる”新作
本能を躍らせるような音楽である。
ロンドンの最重要DJ、ジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)と、インコグニートのブルーイ(Jean-Paul ‘Bluey’ Maunick)の共同プロジェクトであるストラータ(STR4TA)の新作『STR4TASFEAR』を聴いて、あまりに狙い澄ました完璧な完成度に最初はこのアルバムを紹介するのは控えておこう…と思ったほどだ。
けれども、さすがにコレをスルーすることはできなかった。
なにしろ、どのようなリズムやコードチェンジ、音色やベースラインが“人々にウケる”のかを知り尽くした二人である。特に音楽家としてのアウトプット以上に、おそらくはインプットの方が多いであろうジャイルス・ピーターソンのあざとさは侮れない。洗練されており都会的なサウンド──少なくとも私たちがそうなのだと信じ込まされているサウンド─が全体を支配し押し寄せる。一切の批判を許さない計算された隙の無さ。グルーヴ教の信者であれば、いや、そうでなくとも自然と魂が踊らされるおそるべきサウンドの洗脳。
収録曲のほとんどは2〜4小節ほどの一塊のコード進行の繰り返しを組み合わせることで成り立っている。音楽的にはありがちなパターンだが、“ネオ・ソウルのゴッドファーザー”オマー(Omar)や米国の鬼才トランペッターシオ・クローカー(Theo Croker)、シンガーのヴィクトリア・ポートとプロデューサーのマックス・ウィーラーによる英国のデュオ、アヌーシュカ(Anushka)、さらにはUKジャズ・シーンで注目されるエマ・ジーン・サックレイ(Emma-Jean Thackray)らを数曲でフィーチュアするという彼らの人脈だからこそ為せるような豪華な人材をフルに利用。圧倒的な吸引力を備えた完成度で聴衆を撃ち抜く。
アシッドジャズは今も格好いい。
この作品は、わたしたちの本能を刺激し、反射的に踊らせる。