故郷ウクライナへの声なき祈り…。ディミトリ・ナイディッチ、あらゆる感情を込めた魂のソロピアノ

Dimitri Naïditch - Ukraine, les chansons sans voix

ウクライナ出身、仏在住ピアニストによる故郷の歌曲集

クラシックとジャズの両分野で活躍するウクライナ出身のピアニスト、ディミトリ・ナイディッチ(Dimitri Naïditch)の新作 『Ukraine, les chansons sans voix』は、“ウクライナ – 声なき歌”のタイトルが示すとおり、故郷への声にならない祈りを捧げるソロピアノ演奏集となっている。

収録曲はウクライナ各地の伝統曲をモチーフとしディミトリ・ナイディッチがアレンジしたもので、一部にはそうした伝統曲に触発され彼が作曲したオリジナルも含まれている。概して素朴さに胸を打たれる旋律が特徴的で、そんな中にピアノという楽器の表現力を最大限に活かした演奏を通じて生きる喜びや行き場のない悲しみが見え隠れする。陰翳を持った美しいメロディーが印象的な(1)「Ne bois pas mon fils」、抑制的な子守唄(4)「Kolyskova」、母親の失踪を嘆く少女が主人公の(5)「Pryjdy Mamka」などは特に印象的だ。
もちろん悲しみだけではなく、日々の生活になくてはならないユーモアもある。軽やかに弾む(3)「Danse des Carpates」、プリペアド・ピアノで演奏される(7)「Tchernovytska」、踊るような(12)「Fauve song」など──。

これらすべての温かな血の通ったピアノの音楽が、ウクライナ人としての演奏者の気高さとともに響き渡る。

(4)「Kolyskova」

ディミトリ・ナイディッチはウクライナ各地に伝わる数多の歌(その数は80万以上ともいわれている!)の中から、特に心に響く曲を選び演奏したという。

こんにち、こうした豊かな歌を持った故郷の村々は侵略者によって破壊され続けている。
芸術家にできることは何かと悩んだ彼が、そのもっとも純真な願いによってこの作品を生み出した。
ディミトリ・ナイディッチは30年ほどフランスに住み、フランスの国籍を得てはいるものの、2022年2月24日以降、体と魂が攻撃されていると感じ、人生が変わってしまったという。

ラストの(14)「Improvisation sur l’hymne ukranien」はウクライナ国歌「Ще не вмерла України(ウクライナは滅びず)」をモチーフとした即興演奏だ。このあらゆる感情が絡まる圧巻の演奏には、ただただ息を呑むしかない。

ウクライナ国歌をモチーフとした即興(14)「Improvisation sur l’hymne ukranien」

Dimitri Naïditch 略歴

ディミトリ・ナイディッチは科学者である父と、ピアノ教師の母のもと1963年にウクライナの首都キーウ(キエフ)で生まれた。幼少期よりピアノを演奏し、故郷のさまざまなコンサートホールで演奏。1988年から翌年にかけて、リトアニアで開催された全国ピアノコンクールとポーランドで開催された国際コンクールで優勝し、その後キーウの高等音楽学校とモスクワのグネーシン音楽大学で学び技術を完成させている。

1991年にフランスに渡りクラシックとジャズのコンサート活動を続け、1994年からはリヨン国立高等音楽院で教鞭を取るようになった。その後もフランスを拠点にソロ・コンサートから交響楽団との共演まで幅広く演奏活動を行っている。また、2007年から2009年にかけて、彼はウクライナの伝承音楽に焦点をあてた Les Chants d’Ukraine, Davnina と Trio Kiev というプロジェクトで各地でコンサートを行った。

2019年の『Bach Up』などクラシックのジャズアップ作品は高く評価されており、今作『Ukraine, les chansons sans voix』と同時にピアノトリオ編成によるフランツ・リスト作品のジャズアップ『Soliszt』もリリースしている。

Dimitri Naïditch – piano

Dimitri Naïditch - Ukraine, les chansons sans voix
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