チュニジア出身ダファー・ヨーゼフ新譜。H.ハンコック、M.ミラーなど参加の現代ジャズの最重要作

Dhafer Youssef - Street of Minarets

ダファー・ヨーゼフ、現代Jazzの最強メンバーを迎えた新作

北アフリカのチュニジアに生まれ、アラブ世界の伝統音楽と西洋音楽、特にジャズとの融合に挑戦し続けるウード奏者/ヴォーカリストのダファー・ヨーゼフ(Dhafer Youssef)の新譜『Street of Minarets』がリリースされた。まさしく唯一無二のスタイルを武器に、まだ誰も歩んでいない音楽の道を進み続けてきた彼が辿り着いた最高峰だと断言できる素晴らしい作品で、ぜひ多くの人にこの驚異的な音楽を体験してほしいと思う。

ダファー・ヨーゼフは今作でも世界中に彼以外が表現しえない音楽を鳴らす。
最高の音楽をつくるために抜擢したバンドの仲間には、鍵盤奏者ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、エレクトリック・ベースのマーカス・ミラー(Marcus Miller)、ダブルベースのデイヴ・ホランド(Dave Holland)、ドラムスのヴィニー・カリウタ(Vinnie Colaiuta)といった何十年もの間ジャズの真ん中を走り続けるトップランナーに、トランペットのアンブローズ・アキンムシーレ(Ambrose Akinmusire)、打楽器奏者アドリアーノ・ドス・サントス・テノーリオ(Adriano Dos Santos Tenorio)といった近年活躍目覚ましい中堅、さらには欧州とアジアを繋ぐギタリストのグェン・レ(Nguyên Lê)、インドを代表するバンスリ奏者ラケーシュ・チョウラシア(Rakesh Chaurasia)という面子を揃えた。
音楽は名前で聴くものではないと分かってはいるものの、このメンバーを並べられて驚かないジャズ・ファンというのは、おそらくは世界中見回しても誰もいないのではないだろうか…。

(12)「Ondes of Chakras」

個性、創造性、精神性の極みに達する至上の音楽

アルバムは(1)「Street of Minarets」で幕を開ける。Minaretとはモスクやマドラサなどのイスラム教の宗教施設に付随する塔のことで、ダファー・ヨーゼフによるスピリチュアルなヴォーカル──それは次第に高揚し、圧巻の高音域に達する…その音はソプラノサックスやクラリネットの最高音域にも似る──をフィーチュアした前半から、アンブローズ・アキンムシーレやマーカス・ミラーによる特徴的な演奏も印象的な後半部分へと移行する展開には痺れるものがあるし、これだけ豪華な、世界最強とも言えるメンバーを揃えてもダファー・ヨーゼフの音楽的な個性は決して侵されないということにも素直な驚きを感じてしまう。

ダファー・ヨーゼフのウードと、ハービー・ハンコックのピアノとのデュオ演奏の(2)「Bal D’âme」を経て、(3)「Sharq Serenade」の演奏が始まる。ウード、トランペット、バンスリが主旋律を担っていること自体がまず最高に面白いし、目立たずとも空間的な音で場をつくるグェン・レのギター、レゲエの影響を受けたリズム隊という組み合わせも最高に奇妙で楽しい。

(4)「Funky Sharq」は今作の最初のハイライトだ。ダファー・ヨーゼフらしいクセになる変拍子と中東音楽由来の旋律、グェン・レのギター、ハービー・ハンコックのシンセ・ソロなどエキサイティングな演奏を楽しめる。

(4)「Funky Sharq」

「Flying Dervish」はイントロ(5)、本編(6)、アウトロ(7)の3部構成。ダルヴィーシュ(ダルビッシュ)とは狭義にはイスラム教の托鉢僧を指す。副題として「オマル・ハイヤーム(Omar Khayyam)組曲」と名付けられているが、この11世紀のペルシアの天文学者/数学者/詩人からのインスピレーションのエッセンスはこの組曲だけでなくアルバム全体に少なからず影響を与えている。

ラストは9拍子のゆったりとしたリズムの(12)「Ondes of Chakras(チャクラの波動)」。ヨーゼフのウードのほか、インドの古楽器バンスリ(竹製のフルート)やベースのソロが展開され、シンプルながら精神の浄化を感じさせてくれる締め括りに相応しい演奏となっている。

(11)「Herbie’s Dance」

Dhafer Youssef プロフィール

ダファー・ヨーゼフは1967年・チュニジアのテブルバで生まれ、幼い頃から伝統音楽を学ぶ傍らでラジオでジャズを聴き興味関心を高めていった。20歳の頃にジャズ・ミュージシャンを志しチュニジアを離れオーストリアに渡り(当時、オーストリアはチュニジア人にとってビザを必要としない欧州で唯一の国だった)、窓拭きや皿洗いの仕事をこなしつつ音楽家として活動。ウードをメインとした中東音楽を軸にヨーロッパのジャズやエロクトロニカ、インド音楽などを融合させた独創的なサウンドと、鼻を押さえながら圧倒的な高音域で歌う独特の唱法も披露し徐々に注目を浴びるようになる。東京国際映画祭グランプリを受賞した映画『もうひとりの息子』(2012年)の音楽を担当したことでも知られている。

これまでにザキール・フセイン(Ustad Zakir Hussain)、ティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasyan)、ジョン・ハッセル(Jon Hassell)、オマール・ソーサ(Omar Sosa)といった世界中の最高のアーティストたちとの共演を重ねたきた彼だが、今作は間違いなく彼のキャリアの最も高みに到達した作品となりそうだ。

彼は文化のない小さな村の出身に生まれた、と語る

事実、音楽コンサートも映画館も博物館もない村からダファー・ヨーゼフの人生ははじまった。家にある本はコーランだけで、壁には一枚の絵も飾られていないような家庭だ。
芸術が人生の中心となった彼は今、愛や寛容、共感を持って、自分自身のやり方で世界を目指すことが重要だと説く。心を開き、多くの旅行をし、世界中さまざまな料理を試し、偏見を持たずに生きる姿勢がこの驚くべき成功へとつながったのだという。

(1)「Street of Minarets」

Dhafer Youssef – oud, vocal
Ambrose Akinmusire – trumpet
Rakesh Chaurasia – bansuri
Nguyên Lê – guitar
Marcus Miller – bass
Dave Holland – contrabass
Herbie Hancock – keyboards
Vinnie Colaiuta – drums
Adriano Dos Santos Tenorio – percussions

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