ルーカス・サンタナ、静かに優しく環境保護を訴える新作
ブラジルのトロピカリアの継承者、ルーカス・サンタナ(Lucas Santtana)の9枚目のアルバム『O Paraíso』には、彼の代名詞である“エレクトロ・アコースティック”を自然に体現した新しさと懐かしさ、そしてどんな時代にも普遍の心の拠り所となるような素敵な音が詰まっている。
ブラジル音楽の進化を促進した1960年代後半のムーヴメントであるトロピカリアからの影響を色濃く感じさせる音楽だ。楽曲ごとに様々な表現方法を試み、聴けば聴くほどに新しい発見がある。基本的にはルーカス・サンタナ自身のギターと声を中心としながら、それぞれの楽曲に多様なパーカッションや管楽器、エレクトロニックなどさまざまなスパイスを投入。彼にとっては初のフランス・パリで制作されたアルバムであり、フランス語の歌詞をもつ曲も。木管奏者のレミ・シュート(Rémi Sciuto)やトランペット奏者シルヴァン・バルディオ(Sylvain Bardiau)といったフランス出身のジャズ・ミュージシャンもルーカス・サンタナの音楽に新たな息吹を与える。
アルバムタイトルの「O Paraíso」は“楽園”の意味。(1)「O Paraíso」では“楽園はもう既にここにある”と歌い、(3)「Vamos Ficar Na Terra」では火星への人類移住という野望を描き巨額の資金を投入する億万長者を批判し、楽園である地球の環境を守り続けるために知恵を絞るべきだと主張する。
アルバムには彼のオリジナルのほか、レノン&マッカートニー作(7)「The Fool on the Hill」、ジョルジ・ベン作の(4)「Errare Humanum Est」の大胆な独自解釈によるカヴァーも。
歌手のフラヴィア・コエーリョ(Flavia Coelho)、フロール・ベンギーギ(Flore Benguigui)といったゲスト参加もあり、ポルトガル語、フランス語だけでなく英語やスペイン語も用い、楽曲ごとに異なる表情を見せながら多様なブラジル音楽を表現していく。
ルーカス・サンタナの音楽は、偉大なレガシーを探求しながらも常に新時代の音楽や個性の表現を模索する。彼は大袈裟なアピールはしていない。静かに優しく、それでいて痛切なメッセージを語るのがルーカス・サンタナの素晴らしい個性だ。
多彩な音楽のジャンルを内包し、開放的で未来志向のサウンドを追求する『O Paraíso』。ブラジル音楽の新時代への道筋のひとつを示す。
Lucas Santtana プロフィール
ルーカス・サンタナは1970年にブラジル・バイーア州サルヴァドールに生まれたシンガーソングライター。ジョアン・ジルベルト(João Gilberto)やドリヴァル・カイミ(Dorival Caymmi)などから受けた影響に現代的で洗練されたエレクトロ・ミュージックをまぶし、その独自の音楽性は“エレクトロ・アコースティック”の旗手として高く評価されている。
父親はトン・ゼー(Tom Zé)の従兄弟で、ジルベルト・ジルやカエターノ・ヴェローゾの活動に関わってきたプロデューサー、ホベルト・サンタナ(Roberto Sant’Ana)。
楽器はギターをメインとし、フルート、ベース、カバキーニョも演奏する。器楽奏者としてシコ・サイエンス&ナサォン・ズンビ、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、マリーザ・モンチなどと共演。
2000年にソロデビュー作『Eletro Ben Dodô』をリリース。以降多数のアルバム、ドラマの楽曲制作など幅広く活動を行なっている。