カーボベルデの若き“シンデレラ” エリーダ・アルメイダ、波瀾万丈の半生を赤裸々に語る新作

Elida Almeida - Di Lonji

カーボベルデのSSWエリーダ・アルメイダ新譜『Di Lonji』

カーボベルデ出身のシンガーソングライター、エリーダ・アルメイダ(Elida Almeida)の4枚目のアルバム 『Di Lonji』。カーボベルデのクレオール語で「遠くから」を意味するこの作品で、彼女は自身の半生を振り返りつつ困難を越えて辿り着いた現在地を確認し、この先どんなところに行きたいかについてを語る。

まだ20代後半の彼女だが、この作品には逆境から成功を掴んだアーティストの人生が凝縮されている。その波乱に満ちた半生は後述するとして、アルバムは女性としての生き方を教えてくれたという敬愛する祖母との思い出について歌う(1)「Dondona」に始まり、サンティアゴ島の奥地にある故郷の村から首都プライアまでの道のりを辿る(2)「Kaminhu Lonji」など、14の楽曲はいずれもテーマが明確だ。

(12)「Morabeza」は、カーボベルデの人々のライフスタイルを表現している。海と自然に恵まれた気候、信頼で結ばれた人々、料理の味、そして音楽。この島々では音楽は文字通り生活の中に空気のように存在しており、どんな場所にも歌ったり、楽器を演奏したり、踊ったりする人がいるという。カーボベルデの人々にとって、音楽とはあらゆる困難な障壁を克服するための人生の友なのだ。

(1)「Dondona」。タイトルはクレオール語で「祖母」

幼少期での祖母との蜂蜜の収穫の冒険。後に母親と一緒に育ったマイオ島のビーチ。エリーダ・アルメイダはそんな甘い思い出も語りながら、同時に母国における家父長制社会における暴力や虐待などの不快な記憶さえも避けずに伝えようとする。母国の固定観念やタブーを破ることを恐れず、フェミサイドを非難することは成功した女性アーティストとしての自身の役割でもあると信じているためだ。

重々しいアコーディオンと激しい動悸のようなリズムをもつ(10)「Amigu」はカーボベルデの家父長制構造に注意を向けている。(4)「Mexem」では家族内での子どもへの虐待に反対する意思を示している。
カーボベルデのフォーク・ミュージックであるフナナやモルナのスタイルを礎に、ビートメイカーであるモモ・ワン(Momo Wang)によって仕立てられたモダンなサウンドは、世界にほとんど知られていないそうした故郷の現状を伝えるための有効な手段でもあるのだ。

ブラジルのサンバにも通じる曲調の(5)「Bedjera」

ラストに収録された(14)「Domingo Denxo」は1970年代後半から1980年に人気を博したカーボベルデのバンド、ブリムンド(Bulimundo)のカヴァーで、これは彼女が少女時代に電池式のラジオ──その小さな機械は、“世界”を彼女の村にもたらした──でよく聴いた思い出の楽曲への再訪だ。

コロナ禍での人々と音楽の関わりが彼女にインスピレーションを与えた

彼女は語っている:

私はコロナ禍のなかで法律の勉強をし、音楽の仕事は辞め、趣味にすることにしようかと何度も考えました。 でもロックダウン中、人々が精神的な支えとして音楽にしがみついているのを見てきました。 そして、それは私に大きなインスピレーションを与え、新しい希望を与えてくれました。

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この作品はカーボベルデ語なので、その歌詞の意味を正確に把握しメタファー表現を考察することはなかなかに困難だ。それでも、彼女の力強い表現力をもった唯一無二の声と、郷愁、喜び、そして怒りなど様々な魂の感情が込められた繊細で注意深く構築されたサウンドから伝わってくるものはとても多い。

地図にない村から世界へ。Elida Almeida 略歴

エリーダ・アルメイダはカーボベルデ・サンティアゴ島の電気さえ通っていない貧しい農村で1993年に生まれた。その故郷は数十年前までは地図にも載っておらず、住民のほとんどが一生そこを離れることのないほど奥深く、人里離れた村だ。
音楽が好きだった彼女の小さい頃の楽しみは電池式のラジオで歌を聴くこと。幼い頃に父を亡くし、母親の行商を手伝いながら教会で歌った。高校在学中から曲を書き始めたが、16歳でシングルマザーになるなど波乱の人生を歩んできた。

作風はサンティアゴ島で好まれるアフリカ色の強いフナナやバトゥーケといった種類の音楽の影響も強く受けている。2014年末にカーボベルデで、翌2015年5月には全世界でリリースされたデビュー作『Ora Doci Ora Margos』は、日本でもボーナストラックを加えた国内盤が発売されるなど話題となった。

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