【連載】ネイティブ・タンの衝撃~⑦セールスに表れなかった傑作。初期デ・ラ・ソウルの集大成とも言える2001年宇宙の旅

「ニュースクール」の幕開けを高らかに宣言した伝説のクルー

HipHopにはクルーと呼ばれるチームが数多く存在する。古くはマーリーマール(Marley Marl)率いるザ・ジュース・クルー(The Juice Crew)から、ノトーリアス・B.I.G(Notorius B.I.G.)のジュニア・マフィア(Junior M.A.F.I.A)とトゥパック(2PAC)率いるアウトロウズ(Outlowz)は悲しい抗争を生み出した。あのエミネム(Eminem)も元々はD12というクルーのメンバーであるし、最近ではドレイク(Drake)を輩出したヤングマニー(Young Money)も記憶に新しいところだ。このようにHipHop史を語るうえで切り離すことの出来ない“クルー”の存在の中で一際異彩を放つのが、ネイティブ・タン(Native Tongue)である。

日本にHipHopをもたらしたナードな世界観とJ.ディラの存在

正直、デ・ラ・ソウル(De La Soul)は本連載の最後になるだろうと思っていた。
マジックナンバー「3」が揃った2023年3月3日の初期作サブスク解禁、そしてその記念すべき日を見ることなく旅立ってしまったトゥルーゴイ・ザ・ダヴ(Trugoy the Dove)の訃報。
そういったことも含め、改めて偉大なるHipHopアーティスト、デ・ラ・ソウルを今ここで振り返らなければならない。

デビュー作の1曲目を飾った「Magic Namber」。デ・ラおよび”3″の魔法はここから始まった。

前回紹介したジャングルブラザーズ(Jungle Brothers)がネイティブ・タンの始祖だとするのであれば、デ・ラは間違いなくネイティブ・タンのエースであり、当時のHipHop全体を見渡しても異質な存在だった。

デ・ラを語る上で外すことが出来ないのは89年のデビュー作『3 Feet High & Rising』だろう。ここでは詳しくは触れないが、ジャケットのアートワークそのままに、既存のHipHopのフォーマットであった攻撃的で筋肉質なラップスタイルを逸脱し、華やかでファンキー、自分の「好き」を詰め込んだナード(オタク)な世界を展開し、HipHopをアートフレームへと昇華させた功績はあまりにも大きい。

上記に91年の『De La Soul is Dead』、93年の『Buhloone Mindstate』を合わせた初期3作は、これまた本連載で以前に取り上げたプリンス・ポール(Prince Paul)がプロデュース。彼の特徴でもあるSkitを多用した楽曲構成とデ・ラの世界観は新たなHipHopのフォーマットとして世界中に影響を与え、日本でもスチャダラパーなどのアーティストが誕生することとなる。なお、『Buhloone Mindstate』には日本からスチャダラパー高木完が参加し、日本語ラップを披露。今までのHipHopではありえなかったことであり、これだけでもHipHopの潮流が変わったことを感じ取れるはずだ。

初期3部作後、プリンス・ポールと決別したデ・ラは、96年の4th『Stakes is High』でガラッと作風を変えている。ダークでJazzy、大人びたサウンドを打ち出した4thにはプロデューサーとしてJ・ディラが参画。ハッピーでファンキーなサウンドのイメージが強いデ・ラだが、この4thもまた無視することは出来ない。

スチャダラパーと髙木完が参加した楽曲。日本語ラップを海外に知らしめたエポックメイキングな作品。

明確なコンセプトを持って打ち出されたシリーズ3部作の2作目『AOI:Bionix』

4th以降、様々なプロデューサーを招いて創作を行うようになったデ・ラは、Art of Official Intelligence(AOI)シリーズという形で3部作を展開する。レーベルであるTommy Boyの契約問題で結果的に2作で立ち消える本シリーズの2作目がこの『AOI:Bionix』となる。

発表された2001年当時の チャートを見てみると、 HipHopではJay-Zの「IZZO」や、Nellyの「Ride Wit Me」などがランクインしており、本作がセールスの不振も含め埋もれがちで地味な印象であることは否めない。しかし、2000年台のトレンドであるR&BのHipHop化(もしくはHipHopのR&B化)を比較的早い段階から表現していたのが本作と言えるのではないだろうか。

2006年に「One More Chance」で注目を浴びたヤミー・ビンガム(Yummy Bingham)を本作では2曲で起用。同年のサントラ『Osmosis Jones』でも起用するなど、早い段階からヤミーをフックアップしているのは非常に興味深い。

また、4th以降の大人路線を継続しつつも、デビュー作のようなskitやサンプリングなどの遊びをふんだんに散りばめているのも本作の特徴だ。

(4)「Simply」では、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)のクリスマス曲「Wonderful Christmas Time」を大胆にサンプリング。
(6)「Held Down」はフレンチポップスの巨匠、セルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)の「Ah! Melody」をサンプリングとバラエティに富んでいる。
その他、(8)「Watch Out」ではキューバ出身のパーカッショニスト、Jose “Perico” Hernandezをフィーチャー。カル・ジェイダー(CAL TJADER)の「MOOD FOR MILT」を使うなどの多国籍感あふれる楽曲群は初期のおもちゃ箱を開けたような楽しさを感じさせるものであり、4th以降のムードもほどよく融合されたこの『AOI:Bionix』全体を通して、デ・ラ・ソウルの集大成とも言えるものを本作からは感じ取ることができる。

Jose “Perico” Hernandezをフィーチャーした(8)「Watch Out」。

元々、スペーシーなPファンクへの傾倒も垣間見えるデ・ラの作品。
映画『2001年宇宙の旅』のラストは諸説あれど、いずれも肉体からの精神の解放をうたっている。
奇しくも2001年に発表され、Tommy Boyでの最終作となった本作。
デ・ラによる”2001年宇宙の旅”、そして第2章ははまさにここから始まったのである。

プロフィール

同じ高校を卒業した同級生によりニューヨークのロングアイランドで結成された、アメリカのヒップホップ・グループ。
結成以来長年にわたってア・トライブ・コールド・クエストやジャングル・ブラザーズらと共にネイティブ・タンズの中心的グループとして活動しており、独自のユーモアセンスやユニークなサウンドを展開する等ジャズ・ラップやオルタナティブ・ヒップホップといったジャンルの発展に大きく貢献している。
その陽気な歌詞、革新的なサンプリング方法、ウィットに富んだスキットなどからデビュー・アルバム『スリー・フィート・ハイ・アンド・ライジング』は傑作と評されており、また同アルバムに収録されている「Me Myself and I」は、アフリカ系アメリカ人の間で人気のあるファンカデリックの「Knee Deep」をサンプリングしている。2006年にはゴリラズとコラボレーションした「Feel Good Inc.」でグラミー賞を受賞。(Wikipediaより抜粋)

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