シルビア・ペレス・クルス、人生の揺るぎない美しさを歌う新たな傑作『Toda la vida, un día』

Sílvia Pérez Cruz - Toda la vida, un día

シルビア・ペレス・クルスが描き出す人生のあらゆる場面と、循環

カタルーニャを代表する女性SSW、シルビア・ペレス・クルス(Sílvia Pérez Cruz)の2023年新譜『Toda la vida, un día』は、全21曲の膨大な楽曲群を5つの楽章に分け、人生のサイクルと無限の循環に焦点を当てた圧巻の作品だ。シルビア・ペレス・クルスはパンデミックの中で人の命について考える必要性を感じ、実に90人の音楽家たちとじっくりと作品を練り上げていったという。

アルバムのジャケットの円は人生のサークルを表す。物語は始まりから終わり、そして再生までが描かれており、最後は子守唄で幕を閉じる。矢の如く通り過ぎてゆく光陰の一瞬一瞬が濃縮され、味わい深く歌に描かれている。

第一楽章:La Flor(花)

アルバムはカタルーニャ語で“彼は世界が終わることを望んでいない”という意味のタイトルをもつ(1)「Ell no vol que el món s’acabi」で幕を開ける。穏やかなストリングス・アンサンブルやガットギターの響きも美しく、壮大なようでいて、ごく自然で普遍的な物語の始まりを告げる。

(2)「La flor」

この第一楽章のテーマは幼年期だ。
穏やかで安全な家庭、太陽の光や庭に咲く花、いつまでも終わらないでほしいと願う無邪気で輝かしい日々。(4)「Planetes i orenetes」(惑星とツバメ)まで続くこれらの4曲には、人生のあらゆる段階で追体験し、ときに切望する夏が刻み込まれている。

第二楽章:La Inmensidad(広大さ)

青年期をテーマとしたこの楽章では、絶えず変容する環境とそれに伴う成長の喜びや痛みを表現。サウンドも第一楽章から変化し、シンセサイザーやオートチューンも用い、情景と音を注意深くリンクさせてゆく。(5)「Aterrados」の30人の合唱団によるコーラスはパンデミックの孤独の反動のようでもあり、孤独そのもののようにも聴こえる。
(6)「Sin」でシルビア・ペレス・クルスは子ども時代に演奏経験のあったサックスを再び手にしている。

(9)「Salir distinto」にはフラメンコ・ギタリストのペペ・アビチュエラ(Pepe Habichuela)、歌手のカルメン・リナレス(Carmen Linares)、ベース奏者のカルレス・ベナベント(Carles Benavent)、歌手ディエゴ・カラスコ(Diego Carrasco)といずれもスペインの音楽文化を代表する偉大な音楽家が一斉に参加。8分間におよぶ夢のような饗宴を繰り広げている。

第三楽章:Mi Jardín(私の庭)

人生の成熟期をテーマとしたこの楽章では、より多彩さを求めてスペインの国外へと探求を広げていく。現在40歳のシルビアはまさにこの章の始まりにおり、ここでは彼女の知的好奇心の象徴的なコラボレーションが行われている。

まずひとつめ、(11)「Ayuda (Martín)」にはアカ・セカ・トリオで知られるアルゼンチンのSSWフアン・キンテーロ(Juan Quintero)が参加。楽曲はアルゼンチンのエドガルド・カルドーソ(Edgardo Cardozo)のカヴァーで、孤独な人生の中でそれでも誰かの助けと心の癒しを求める心情を美しいデュオで歌っている。

(12)「Mi última canción triste」にはメキシコのSSWナタリア・ラフォルカデ(Natalia Lafourcade)との共演。現在のスペイン語圏の歌手として最も素晴らしい二人の奇跡的な邂逅はあまりに美しく、魂にそっと触れられるような優しさだ。

ナタリア・ラフォルカデと共演した(12)「Mi última canción triste」

第四楽章:El Peso(重さ)

13〜15曲目の3曲のテーマは老齢期。

(13)「Toda la vida, un día」(あらゆる人生、ある日)は今作のハイライトとなる1曲で、シルビアがアルゼンチンの1948年生まれの名歌手リリアナ・エレーロ(Liliana Herrero)に捧げ、彼女との世代を超えたデュエットが実現。歌は静けさの中で始まるが、シルビアとリリアナの声に徐々に合唱団によるコーラスも加わり、最後はチェロの深く幽玄な響きで締め括られる。

(13)「Toda la vida, un día」

この章の最終曲である(15)「Em moro」はポルトガルの歌手サルヴァドール・ソブラル(Salvador Sobral)とのアカペラ・デュオ。

第五楽章:Renacimiento(再生)

再生期をテーマとした最終楽章には6曲が収められている。
第4楽章での重々しい雰囲気から一点、子どもとそれを見守る家族の声で始まる(16)「21 de primavera」から、明るく希望に満ちた表現が続き、救われる。

(18)「Estrelas e raiz」にはカタルーニャの若き人気アーティスト、マロ(Maro)とリタ・パイエス(Rita Payés)がフィーチュアされており、世代を超えた文化の継承を象徴する。

(19)「Nombrar es imposible」はキューバ・ハバナで録音されたもので、ロリー・ベリオ(Roly Berrío)、フアン・パストル(Juan Pastor)、マルビス・マンサネット(Marbis Manzanet)といった現地のミュージシャンが参加し、活力あるアンサンブルで音楽を歌い演奏することの素晴らしさを伝える。

(19)「Nombrar es imposible」。MVはハバナで撮影されている。

Sílvia Pérez Cruz 略歴

シルビア・ペレス・クルスは1983年スペイン・カタルーニャ州生まれ。母親は彼女にサックスとピアノの演奏、ダンスと彫刻を教え、父親は彼女にギターを教えた。カタルーニャ高等音楽院(ESMUC)ではピアノとサックスを学び、ジャズ・ヴォーカルで学位を取得。
2004年に女性4人でフラメンコ・ユニット、ラス・ミガス(Las Migas)を結成しヴォーカリストを担当。グループはその高い芸術性で Instituto de Juventud による「最高のフラメンコ・グループ」の賞を受賞するなどすぐに話題となり、シルビアも同国を代表する歌手として認知されるに至った。

2011年にソロ活動に専念するためLas Migasを脱退、コントラバス奏者のハビエル・コリーナ(Javier Colina)との共同名義でアルバム『En La Imaginación』(2011年)を発表。
2018年には日本とスペインの国交樹立150周年を記念した日本企画のベスト盤も発売され、同年に初来日しブルーノート東京で公演を行っている。

Sílvia Pérez Cruz – vocal, guitar, saxophone, synthesizers
Carlos Montfort – violin, percussion, trumpet, chorus
Marta Roma – cello, trumpet, keyboards, chorus
Bori Albero – contrabass, synthesizers, chorus

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