ブラジリアン・ジャズギターの最高峰デュオ『Two Brothers』
共にブラジルに生まれ、故郷の音楽に深く根差しつつ米国でジャズを軸に活動する二人のギタリスト、シコ・ピニェイロ(Chico Pinheiro)とホメロ・ルバンボ(Romero Lubambo)。20歳ほどの歳の差がありつつも共通点のある天才的な二人による初めてのデュオアルバム『Two Brothers』がリリースされた。
ナイロン弦のギター(クラシックギター、ヴィオラォン)とエレクトリック・ギターを使い分け、会話のキャッチボールのようにメロディー(即興)と伴奏を目まぐるしく交代しながらの演奏はまさに極上。楽曲も二人のお気に入りを持ち寄ったというカヴァー曲集となっており、ジャヴァン(Djavan)の(1)「Aquele Um」、シコ・ブアルキ(Chico Buarque)の(2)「Samba E Amor」、ジョビン(Antônio Carlos Jobim)の(6)「Wave」といったブラジルが生んだ名曲からミシェル・ルグラン(Michel Legrand)のフレンチ・スタンダード(3)「Windmills of Your Mind」、さらにビル・エヴァンス(BIll Evans)の(5)「Waltz for Debby」、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)の(7)「Send One Your Love」やレノン=マッカートニーの(9)「For No One」、スティング(Sting)の(12)「Until」など実に幅広い選曲が魅力的だ。
選曲でちょっと変わったところでは現代のポップ・スター、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の(8)「My Future」だろうか。ホメロ・ルバンボはビリー・アイリッシュと「Billie Bossa Nova」で共演しており、そうした縁からの選曲なのかもしれない。
アルバムでは全編、二人がともに圧倒的な技巧で弾きまくるのだが、ガットギターが主体のサウンドのためか嫌らしさは一切なく、むしろ最上級の心地よさがある。個人的には原曲も大好きな(5)「Waltz for Debby」が、もう、最高すぎる。
Chico Pinheiro 略歴
シコ・ピニェイロは1973年サンパウロ生まれ。ギターは6歳からはじめ、14歳の頃にはセッションギタリストとしてプロの活動を始めている。
ジャズの名門校である米国ボストンのバークリー音楽大学を卒業後すぐにその卓越したギターの演奏技術とブラジル音楽を軸とするセンスで注目され、デビュー作となる『Meia Noite Meio Dia』(2003年)にはルシアナ・アウヴェス(Luciana Alves)、レニーニ(Lenine)、エヂ・モッタ(Ed Motta)、シコ・セーザル(Chico César)、マリア・ヒタ(Maria Rita)といった大物がこぞって参加。その後もコンスタントに作品を発表し、ブラジル、米国、ヨーロッパを中心に称賛されてきた。
ブラジルの音楽家以外にも、これまでにブラッド・メルドー(Brad Mehldau)、デイヴ・グルーシン(Dave Grusin)、ダイアン・リーヴス(Dianne Reeves)、カート・エリング(Kurt Elling)、ボブ・ミンツァー(Bob Mintzer)、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、ブライアン・ブレイド(Brian Blade)、エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)、アリ・ホーニグ(Ari Hoenig)と言った現代ジャズにおける世界中のキーマンたちと共演を果たし、着実にそのキャリアを積み重ねている。
Romero Lubambo 略歴
ホメロ・ルバンボは1955年リオデジャネイロ生まれ。叔父がギター弾きで幼い頃からその演奏に触れ、家の中ではアメリカのジャズやクラシック音楽がよく流れていたという。最初にクラシックのピアノを習ったが2年ほどで辞め、13歳の頃にギターを手に取り独学で習得。1972年から1977年までヴィラ・ロボス音楽学校に通い、クラシックギターを学んだ。
1985年に渡米し、歌手のアストラッド・ジルベルト(Astrud Gilberto)と活動。翌年、彼は「私のアメリカ人の父、私の人生のメンター」と呼ぶジャズ・フルート奏者のハービー・マン(Herbie Mann)に出会った。
以降は米国を活動の拠点としマイケル・ブレッカー(Michael Brecker)、ダイアナ・クラール(Diana Krall)、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)、パット・メセニー(Pat Metheny)、イヴァン・リンス(Ivan Lins)、エルメート・パスコアール(Hermeto Pascoal)、フローラ・プリム(Flora Purim)、アイルト・モレイラ(Airto Moreira)といった様々なアーティストと共演を重ねてきた。
2017年にエドゥ・ロボ(Edu Lobo)、マウロ・セニージ(Mauro Senise)との共同名義で発表したエドゥ・ロボ楽曲集『Dos Navegantes』はラテングラミー賞のベストMPBアルバムを受賞している。
Chico Pinheiro – acoustic guitar, electric guitar
Romero Lubambo – acoustic guitar, electric guitar