多才な芸術家、A NiN がデビュー作で魅せるブラジル音楽の飾らない真髄

A NiN

ヨーロッパで才能を開花させたリオの芸術家、A NiNのデビュー作

名前が検索にヒットしにくいアーティストというのは若干厄介だ。たとえば今回紹介するブラジルのA NiN。初めて聴くアーティストだったが、サブスクの海を泳いで偶然行き着いた彼女のデビュー・アルバムらしき『A NiN』がとても良かった。なのでなんとか調べたいと思ってググったが、全く本人らしき情報がヒットしない。せめてアルバムタイトルにもう少し工夫を凝らしてくれれば…とも思うのだが、実際はそうなっていないので仕方がない。なんとかして辿り着いた先は、リオデジャネイロの名門レーベル、ビスコイト・フィーノ(Biscoito Fino)のホームページだった。

A NiN という女性歌手の音楽は簡単にいうとボサノヴァの要素がかなり強いMPB(ブラジルのポピュラー音楽)。収録曲はジルベルト・ジルやアントニオ・カルロス・ジョビンを中心に、訴求力の強いブラジルの名曲たちをカヴァーしている。しかしそれが単なる安直なカヴァーではなく、歌手としての彼女の魅力が充分に表現された素晴らしい音楽になっているからこそ、ぜひ当サイトでも紹介をしたいと思ったのだ。

(2)「Fotografia」、(9)「Desafinado」のようなジョビンの名曲を原曲に忠実でストレートなボサノヴァで出してきたのはある意味清く、それだけ自信もあるのだろうと感心するが、やはり良い曲は何度聴いても良いし、この作品を安心して聴けるものとして万人にお勧めできる一因にもしていることは否めない。

しかしそうした一番キャッチーなポイントから少し目を離すと、今作は実に多彩な音楽性を持っていることに気付かされる。しっとりとした小編成サンバで演奏されるネルソン・カヴァキーニョの名曲(6)「Juízo Final」、名手ベベ・クラメール(Bebê Kramer)のアコーディオンが印象的なタンゴ(10)「Lama」などは、A NiN こと本名アナ・フレイリ(Ana Freire)という歌手のブラジル音楽への愛情がしっかりと伝わってくる。

エヂソン・トリンダーヂ(Edson Trindade)作の(12)「Gostava tanto de você」

A NiN プロフィール

Biscoito Fino では、A NiN(Ana Freire)という歌手は“多面的で予測不可能”な人物だと紹介されている。

彼女は18歳のときにリオデジャネイロからヨーロッパに向かうことを決意した。彼女は両親に、ほとんど知らない人たちとヨットで大西洋を横断する計画であることを打ち明けたが、親からは当然のように猛反対され、結局、親からプレゼントされた“短時間の安全な旅を保証する”航空券でヨーロッパへと渡ることになった。

それから3ヶ月でフランス語を習得した彼女のヨーロッパの旅はなんと数十年に及んだ。

彼女はヨーロッパでさまざまな芸術的才能を開花させた。
スイスでは服のデザイナーとなり、戯曲の脚本家となり、抽象芸術の展覧会も好評を博したという。

しかし2016年のある日、A NiNはスイスでの静寂と寒さに疲れ、音楽と映画という若い頃の情熱に再会するためにブラジルに戻ることにした。

今作はそんな経緯を経て制作されたもので、A NiN自身が手がけたフランス語の訳詞で後半を歌う(4)「Insensatez」はまさにブラジルとフランス語文化圏への架け橋となるものだ。

彼女はシンガーソングライターのオットー(Otto)が出演する予言的な短編映画『Noturna』の脚本と演出を手がけており、それも間もなく公開される予定とのこと。

Ana Freire (A NiN) – vocal, chorus
Camilla Dias – piano, chorus
Marcelo Costa – percussion, chorus
Alberto Continentino – contrabass, chorus
João Ribeiro – guitar, chorus
Eveline Hecker – chorus
Aline Cabral – chorus
Gabriel Pinheiro – chorus
Everson Moraes – trombone
Bebê Kramer – accordion

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