インドとブラジル、ほか多様な音楽文化に満たされた奥深き傑作。ガナーヴィヤ&ムニール・オッスン 初のデュオ作

Ganavya & Munir Hossn - Sister, Idea

歌手ガナーヴィヤとマルチ弦楽器奏者ムニール・オッスンのデュオ作

南インド出身の歌手/作曲家/ダブルベース奏者/学者のガナーヴィヤ(Ganavya)と、ブラジル出身のギター/ベース奏者/作曲家ムニール・オッスン(Munir Hossn)。異なる文化的背景を持ちながら、ともに国際的に注目される二人のアーティストが初のデュオアルバム『Sister, Idea』をリリースした。

ムニール・オッスンが弾く様々なギターと、ガナーヴィヤの歌を中心とした構成で、余計なものを一切排除しつつもそれぞれの類稀な感性と圧倒的な技術で相当に深みのある音楽作品となっている。全7曲、全体の収録時間も20分と短いが、とにかく充実した音楽体験ができる素晴らしいアルバムだ。

ムニール・オッスンによって作詞作曲された(1)「Esperança」は、シンプルなガットギターのアルペジオに乗せたガナーヴィヤのヴォーカルはポルトガル語だがインド音楽の抑揚で歌われ、非常に情感豊か。コーラス部分はムニール・オッスンがオクターヴ・ユニゾンで歌うが、ブラジル人の彼はガナーヴィヤのような抑揚をつけず平坦に歌い、この対比によってさらにガナーヴィヤの歌の魅力が際立つ。

二人の共作曲である(2)「Brother, Idea」はガナーヴィヤのパートは英語で、ムニールのパートはポルトガル語で歌われている。非常にブラジル音楽的特徴のあるメロディーとコード進行だが、やはりガナーヴィヤの小節こぶしがブラジルにはない響きをもたらす。

(2)「Brother, Idea」

(3)「What Do You Do?」はスチール弦ギターが使われており、曲調もアメリカーナの香り。英語詞も他愛無いものだが、やはりインドルーツの歌唱法とごく一部で歌われるムニールのポルトガル語の歌唱からはアメリカに住むディアスポラたちの声を深読みしてしまう。

(3)「What Do You Do?」

(4)「Quizas, quizas, quizas」はキューバのシンガーソングライター、オズワルド・ファレス(Osvaldo Farrés, 1903 – 1985)のカヴァー。歌詞は原曲のスペイン語だが、途中ガナーヴィヤの母語であるタミル語で歌われる一節も。
この曲と次の(5)「El Juego」ではムニール・オッスンはエレクトリック・ベースで歌の伴奏を務めている。

(6)「Sister, Idea」は北アフリカ的なエッセンスも加わった面白い演奏だ。ムニール・オッスンはガットギターでゲンブリ(グナワ音楽などで用いられる楽器)の演奏の再現を試みている。

ラストの(7)「Hope is the thing with feathers」はガナーヴィヤ単独の作詞作曲。ムニールが弾くエレクトリック・ギターに乗せるガナーヴィヤの歌は非常にダイナミクスも広く、表現者としての素晴らしい才能に感嘆させられる。

Munir Hossn 略歴

ムニール・オッスンは1981年ブラジル・パラナ州マンダグアリ生まれ。アフリカ系、アラブ系、イタリア系、ブラジル先住民族と入り組んだ家系で、母方の祖父や叔父はラジオ局のアナウンサーだった。
彼が生まれたとき既に父親は彼のもとにおらず、母親も仕事の最中はまだ幼いムニールを祖父に預け、祖父はラジオ・ディスコを彼の子供部屋にしたので、ムニールはカセットテープやレコードをおもちゃにして遊んで過ごしていたという。

6歳のとき、叔父は彼の人生を永遠に変えることになるアコースティック・ギターを彼にプレゼントした。その後彼は母親が通う地元の教会の司祭に音楽の才能を認められ、教会が保有する楽器を自由に使わせてもらえるようになり、ドラム、キーボード、パーカッション、ギター、ベースといった担当者の代役を務められるようになった。

音楽に魅了され、周囲からも“神童”と呼ばれていたムニールは10歳の頃から夜の街のクラブで演奏するようになり、周りの同年代の子どもたちのように小学校に通うことを辞め、そこから音楽家として家庭の生活費を稼ぐようになっていった。

国内での活動のあと、22歳頃にスペインから国際的なキャリアも開始し、2007年にはフランスに移りジョー・ザヴィヌル・シンジケート、ディディエ・ロックウッド、ロベルト・フォンセカ、マイラ・アンドラーデ、イブラヒム・マーロフなど世界的に有名なアーティストと共に世界中をツアー。

2011年に初のリーダー作『INdiGenaJazz』をリリース。多様なルーツや音楽的経験に根ざした色彩豊かな内容が高く評価された。

Ganavya 略歴

一方のガナーヴィヤ(Ganavya Doraiswamy)は南インドのタミル・ナードゥ州生まれ。彼女の祖母であるシーサ・ドライスワミー(Seetha Doraiswamy, 1926 – 2013)はカルナティックの有名なマルチ楽器奏者で、とりわけ水で満たされた茶碗のようなものを叩くジャルタラン(jal tarang)の巨匠として知られ、この忘れかけられた楽器の復興と継承に多大な貢献をした人物である。

ガナーヴィヤは子供の頃に巡礼などを通して学んだ古代インドの精神性や歌唱法と、現代音楽やジャズの融合というニッチな分野を切り拓いてきた。演劇と心理学の学位を取得し、現代パフォーマンスと民族音楽学の学位も取得している。バークリー音楽大学では大学院の特別研究員として「インド音楽のサウンド」というタイトルのコースをつくり、そのためのテキストも執筆。ハーバード大学の博士課程でも学ぶなど、特別な才能で幅広く活躍している。

キューバのピアニスト、アルフレッド・ロドリゲス(Alfredo Rodríguez)の傑作アルバム『Tocororo』(2012年)にゲスト参加しタイトル曲を歌ったことでその名が広く知られるようになり、2018年には初のソロ作『Aikyam: Onnu』をリリース。ニューヨーク・タイムズ誌やダウンビート、オール・アバウト・ジャズなど米国でも高く評価された。

現在の米国のジャズシーンを代表する女性歌手/ベース奏者エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)が様々な分野の専門家と協力し“究極のヒーリング・アルバム”として制作し、第64回グラミー賞で最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞した2021年作『Songwrights Apothecary Lab』では南インド音楽の専門家としてリード・リサーチャー/ヴォーカリストとして参加。

ガナーヴィヤはこうした実績から、米国内外で関心が高まるインド音楽の第一人者として深い信頼を積み重ねている。

Munir Hossn – acoustic guitar, electric guitar, electric bass, voice, composition, lyrics
Ganavya – voice, double bass, composition, lyrics

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