気鋭ジャズ・ヴィブラフォン奏者サイモン・ムリエ、伝統と進化を併せ持った3rd『Isla』

Simon Moullier - Isle

ジャズ・ヴィブラフォン新世代、サイモン・ムリエ新作

1994年フランス生まれ、2020年のデビュー作『Spirit Song』が広く絶賛された新鋭ヴィブラフォン奏者、サイモン・ムリエ(Simon Moullier)。コロナ禍でブルックリンを離れ過ごしたブルターニュ沖の小さな島で家族たちとの時間を通じて生み出した新作『Isla』は、創造的で美しい音に満ちた素敵なヴィブラフォンのジャズとなっている。

今作はカルテット編成。ピアノにレックス・コルテン(Lex Korten)、ベースにアレキサンダー・クラッフィー(Alexander Claffy)、そしてドラムスには彼の過去3作全てで叩いているキム・ジョングク(Jongkuk Kim)といういずれも現代NYのジャズシーンで活躍する気鋭奏者たちを迎え、ジャズの伝統に則りつつも新風を感じさせる心地良いセッションを展開してゆく。

(2)「Isla」

軽快にスウィングするワルツ(1)「Empress of the Sea」、ピアノとヴィブラフォンがユニゾンするテーマと、フォービートに乗せたグルーヴィーな即興が爽快な標題曲(2)「Isla」、流麗なヴィブラフォンのソロの美しい音色に痺れるスタンダード曲(3)「You Go to My Head」、キム・ジョングクのタイトなビートとアレキサンダー・クラッフィーの粘るベースが気怠い雰囲気を醸す(4)「Enchantment」。

デューク・エリントンの息子であるマーサー・エリントン(Mercer Ellington)作のスローバラード(5)「Moon Mist」では今作ではほぼ脇役に徹するピアノのレックス・コルテンが見せ場をつくり、(7)「Phoenix Eye」では再び早いビートに乗せて技巧的なビバップ・スタイルのヴィブラフォンが楽しめる。

ヴィブラフォンという楽器が誕生したのは1920年代初頭の頃だという。それからライオネル・ハンプトン(Lionel Hampton, 1908 – 2002)、ミルト・ジャクソン(Milt Jackson, 1923 – 1999)、ボビー・ハッチャーソン(Bobby Hutcherson, 1941 – 2016)、ゲイリー・バートン(Gary Burton, 1943 – )といったヴィブラフォンの巨匠たちがジャズの変革のなかで大きな役割を果たしてきた。ヴィブラフォンはその奏者こそ多くはないが、ジャズにとって象徴的な楽器だ。近年ではジョエル・ロス(Joel Ross, 1995 – )やサーシャ・ベルニナー(Sasha Berliner, 1998 – ) といった米国の新世代だけでなく、メキシコ出身の革新的な奏者パトリシア・ブレナン(Patricia Brennan)や台湾出身のチェンチェン・ルー(Chien Chien Lu, 1989 – )など世界中から多くの新鋭たちが現れている。
サイモン・ムリエもまた、そうしたジャズ・ヴィブラフォンの歴史に名を刻みつつある。

(7)「Phoenix Eye」

Simon Moullier 略歴

サイモン・ムリエは1994年パリ生まれ。
フランスのナントでクラシック・パーカッションを学んだ後、米国ボストンのバークリー音楽大学を経てNYのブルックリンを拠点に活動している。

学生時代にロサンゼルスのセロニアスモンク・ジャズ・インスティテュートでハービー・ハンコック(Herbie Hancock)に師事。さらにハバナ国際ジャズフェスティバルではクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)に見出された。

2020年秋にデビューアルバム『Spirit Song』をリリース。それから1年も経たない2021年6月には、2022年に開催されたジャズ・ミュージック・アワードの「ベスト・ニュー・ジャズ・アーティスト」にノミネートされたトリオ作『Countdown』をリリースしている。

Simon Moullier – vibraphone
Lex Korten – piano
Alexander Claffy – bass
Jongkuk Kim – drums

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