リオーネル・ルエケ全面参加。ヨセフ・ガトマン新譜『Soul Song』
現代イスラエル・ジャズシーンを代表するベーシスト/作曲家、ヨセフ・ガトマン・レヴィット(Yosef Gutman Levitt)新譜 『Soul Song』は、これまでバンドを組んできたオムリ・モール(Omri Mor, p)とオフリ・ネヘミヤ(Ofri Nehemya, ds)に加え、バークリー時代の旧友であるギタリストのリオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)を加えた超豪華カルテットでの作品となった。
音楽的にはハシディズムの旋律やアフリカの音楽が見事に混ざり合い、ジャズの器に美しく盛り付けられた、素晴らしく穏やかで安らぎのある音楽だ。
南アフリカで生まれ育ったヨセフ・ガトマンは、ジャズを学ぶために渡った米国ボストンのバークリー音楽大学で、志を同じくするベナン生まれのリオーネル・ルエケと出会った。二人は親交を深め、卒業後はニューヨークで共に演奏したが、その後リオーネルが名門ブルーノート・レコードと契約を結び世界的な人気ギタリストとなったのとは対照的にヨセフはひっそりと楽器を置き、結婚して家庭を持ち、テック系の起業家として成功を収め2009年にイスラエルに渡り第二の人生を歩んできていた。
ヨセフは2018年頃に音楽に復帰、以降、ブランクを取り戻すような驚異的なペースで作品をリリースし続けていることは当サイトでこれまでも紹介してきた通りだ。
収録曲は主にヨセフと今作でもプロデューサーを務める木管奏者ギラッド・ローネン(Gilad Ronen)との共作。10年以上ぶりにリオーネルと再会したヨセフだが、ここではメロディックなソロよりもリオーネルの伴奏に徹しており、旧友と共に演奏する喜びを噛み締めているように聴こえる。「Amud Anan」という曲はリオーネルとのデュオ演奏(6)と、カルテットによるバンド演奏(14)が収められているように、旧友との再会を喜びつつ、世界的な成功を収めた彼を最大限にリスペクトし引き立てる意図も感じられる。
ヨセフは本作にこんなコメントを寄せている。
リオーネルは音楽に自分自身を持ち込んでいる。リオーネルのようなプレーヤーには、彼が望むすべての余地を与えるんだ。
Bandcamp
リオーネルだけではない。ピアノのオムリ・モールも、ドラムスのオフリ・ネヘミヤもどちらも世界的な人気を誇る演奏家だ。正直、今作のメンバーで国際的な知名度が最も低いのはバンドリーダーであるヨセフ自身であろうことは客観的事実だ。
この作品でのヨセフ・ガットマンの演奏は、そんな彼ら全員をリスペクトし、互いを引き立てる役割を果たそうとしているように感じる。どこまでも寄り添うような優しさが演奏から感じられるのは、根底にそういった姿勢や考え方があるからなのだろう。
Yosef Gutman プロフィール
ヨセフ・ガトマン・レヴィット(Yosef Gutman Levitt, ヘブライ語:יוסף גוטמאן לויט)は南アフリカ・ヨハネスブルグから1時間程度の農場で生まれ育った。幼い頃から音楽の才能の兆しを見せ、最初にピアノ、そして10代後半でベースギターを手にとり、故郷南アフリカから米国に渡りボストンのバークリー音楽大学、そしてニューヨークに移り住んだ。ニューヨークには10年以上住み、ギタリストのリオーネル・ルエケ(Lionel Loueke)らと広く演奏したが、この時期は残念ながら音楽への欲求不満と無力感が高まる時期でもあった。
音楽の道を歩むことをやめ、テック系の起業家として成功し10年ほど音楽から離れていたヨセフだが、近年になってユダヤ教のハシディズム(神秘主義的運動)の伝統的なメロディーをベースに再び音楽活動を開始。トレードマークである5弦のベースを持ち2019年1月にソロデビュー作『Chabad Al Hazman』をリリース。
2020年には古代ユダヤ教にインスパイアされた壮大なダブル・アルバム『The Sun Sings to Hashem』『The Moon Sings to Hashem』をリリース、2022年初頭には以前から大きな音楽的影響を受けていたブラジル音楽に傾倒した作品『Ashreinu』をリリースしている。
Lionel Loueke – guitar
Omri Mor – piano
Ofri Nehemya – drums
Yosef Gutman – bass