サロマォン・ソアレス&ゲゲ・メデイロスが贈るノルデスチ音楽の魅力
ブラジルのピアニスト、サロマォン・ソアレス(Salomão Soares)とパーカッション奏者ゲゲ・メデイロス(Guegué Medeiros)によるデュオ・アルバム『Baião de Dois』。自由奔放で豊かな創造性のサロマォン・ソアレスのピアノと、ここではザブンバ(ブラジル特有の打楽器)に専念するゲゲ・メデイロスの至福のセッションがたっぷりと楽しめる作品で、取り上げられた楽曲はブラジル北東部音楽「バイアォン」をテーマに選曲されたカヴァーが8曲。
(1)「Feira de Mangaio」はブラジルを代表するサンフォーナ(アコーディオン)奏者シヴーカ(Sivuca)の代表曲。エグベルト・ジスモンチやアンドレ・メマーリといったブラジルの名ピアニストを彷彿させる軽やかで曲芸的に飛び回る自由闊達なピアノが印象的だが、ヴィデオを観て驚いたのはゲゲ・メデイロスのザブンバだ。彼の楽器のヘッドは一般的なザブンバと異なり、インドの打楽器タブラやムリダンガムのヘッドを思わせる黒い部分(スヤヒ = 鉄粉と穀物の粉を練り込んだもの)がこんもりと貼り付けられている。これは近年ブラジルで流行っている手法のようだが、この効果は絶大で、通常のザブンバに比べ豊かな音色の表現が可能に。ザブンバは右手でマレット、左手でスティックを持ち裏表両面を叩くという元々表現力豊かな楽器だが、こうした工夫によってピアノとザブンバのデュオという珍しい編成の音楽をより楽しいものに昇華させている。
(2)「13 de Dezembro」はルイス・ゴンザーガ(Luiz Gonzaga)、(3)「Sete Anéis」はエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)の曲。ほかにはエドゥ・ロボ(Edu Lobo)の名曲(6)「Ponteio」やシコ・ブアルキ(Chico Buarque)の(8)「Paratodos」などブラジル音楽ファンには堪らない選曲で、ブラジル音楽ファンでなくともジャズファン、即興音楽ファンであればブラジルの(特に北東部の)音楽に特有の魅力を感じていただくには最良のアルバムだろう。
Salomão Soares 略歴
ピアニストのサロマォン・ソアレスはブラジル北東部のパライーバ州の自然豊かな地で生まれた。父親はルイス・ゴンザーガ、パウリーニョ・ダ・ヴィオラ、エリス・レジーナなどを聴き、母親もギターをつま弾き歌うという音楽好きの家庭で育ち、サロマォン少年も街のバンドでサックスを吹いたりパーカッションを叩いていた。
2008年から作曲や編曲に没頭し、サンパウロに移住しエルメート・パスコアール・グループの鍵盤奏者アンドレ・マルケスに師事。音楽院でポピュラーピアノを学び、2017年にはスイスのモントルー・ジャズフェスティヴァルのピアノコンクールのファイナリストに。
これまでにエルメート・パスコアール、トニーニョ・フェハグッチ、レニー・アンドラーヂなど巨匠たちとも共演し、ここ数年のブラジル音楽界で最も注目されるピアニストのひとりとなっている。
Guegué Medeiros 略歴
ゲゲ・メデイロスはパライーバ州都ジョアン・ペソアで芸術家の大家族の家庭に生まれ育った。
ザブンバの専門家として知られ、30年以上にわたる音楽キャリアの中でシコ・セザール、モアシル・サントス、ジルベルト・ジル、ドミンギーニョス、シヴーカ、ネイ・マトグロッソら著名なアーティストと共演。
2020年にはザブンバの巨匠らの参加を得て、ブラジル初のザブンバに関するドキュメンタリー『Zabumbando』を制作している。
Salomão Soares – piano
Guegué Medeiros – zabumba