アルメニア、インド、トルコなどの文化が混在する多文化ジャズ
アルメニア神話の水、海そして雨の女神ナール(ツォヴィナール)にインスパイアされたというオーストラリアのジャズバンド、ヴィジョンズ・オブ・ナール(Visions of Nar)がデビュー作『Daughter of the Seas』をリリースした。サックスの旋律はアルメニアの民族音楽に強く影響されたものだが、空間系エフェクターを多用したギターや、テクニカルなタブラの音など無国籍感に溢れる不思議で美しい音楽となっている。
グループとしてはデビュー作だが、参加メンバーにはそれぞれ長い経験や受賞歴を持つ中堅奏者が集う。
シドニー生まれのサックス奏者でシドニー音楽院の教授も務めるジェレミー・ローズ(Jeremy Rose)、レバノン出身でアルメニアにルーツを持ち、現在はシドニーを拠点とするピアニストのゼラ・マルゴシアン(Zela Margossian)、ロックやアダルト・コンテンポラリー・ミュージックの分野でも活躍するギタリストのヒラリー・ゲッデス(Hilary Geddes)、ARIA Music Awards(オーストラリア・レコード協会音楽賞)受賞経験者のインド系タブラ奏者ボビー・シン(Bobby Singh)、そしてトルコ出身のクルド人打楽器奏者アデム・ユルマズ(Adem Yilmaz)の5人。それぞれ非常に特徴ある出自のとおり個性的な音を持っており、アンサンブルでもそれぞれの持ち味を発揮。ジャズという共通言語の中で彼ら独自のワールド・ミュージックを探求する。
アルバムタイトルはDaughter of the Seas、つまり“海の娘”となっているが、これは女神ナール(ツォヴィナール)の元々の意味でもある。彼らの音楽は、強大な力を持った神で、天から雷を伴った激しい雨を降らせることもあるというナールの神話での言い伝えを卓越した演奏力で見事に表現している。美しさと恐ろしさが同時に存在する自然への畏敬、世界各地で営まれる人間の生活への賛美。独自の音楽的アプローチで古代と現代を対比する素晴らしい作品だ。
Jeremy Rose – soprano saxophone, tenor saxophone, bass clarinet
Zela Margossian – piano
Hilary Geddes – guitar
Adem Yilmaz – percussion
Bobby Singh – tabla