タチアナ・パーハとエリカ・ヒベイロ 初のデュオ・アルバム
ブラジル・サンパウロの歌手タチアナ・パーハ(Tatiana Parra)と、ピアニストのエリカ・ヒベイロ(Erika Ribeiro)のデュオ・アルバム『entre luas』がリリースされた。
タチアナ・パーハの声を待ち侘びていた方も多いのではないだろうか。これまでも彼女はアンドレス・ベエウサエルト(Andrés Beeuwsaert)やヴァルダン・オヴセピアン(Vardan Ovsepian)といった国際的な素晴らしいピアニストと組み、ブラジル音楽のなかでも最も研ぎ澄まされた部分を見せてくれてきた。タチアナ・パーハといえばピアノデュオがいいよね、というイメージもあり、今回新たに組んだエリカ・ヒベイロとのデュオにも否応なく期待が高まる。
タチアナ・パーハとエリカ・ヒベイロの二人はこれまでもギター奏者ルイス・レイチ(Luis Leite)の2017年作『Vento Sul』や、直近ではアレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andrés)の『Macaxeira Fields』10周年プロジェクトでの「Sem Fim」など、たびたび共演を行なってきた。今作はおそらくはそうした伏線の延長線上にあるものだが、ブラジル国外の作曲家の作品を積極的に取り上げるというコンセプトと、エリカ・ヒベイロの端正かつ自在な表現のピアノと相まって、タチアナ・パーハの魅力の現在地点の最高の瞬間を捉えたものとなっているように思う。
カルロス・アギーレ、オヴセピアン、カリーナ・コントレラス、オリヴィア・トルンマー etc…
今作は間奏曲として挿入される小品(6)「entre luas」、(10)「intermezzo」、(12)「essência」を除き、すべての収録曲はカヴァーとなっている。
(1)「el barrio, el candombe」はアルゼンチンのマルチ奏者/作曲家カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre)の作品。メロディーはスキャットで歌われ、自然にインスパイアされる鬼才カルロス・アギーレの音楽の美しさに新たな息吹を与える。
(3)「parapet」はアルメニアのピアニスト/作曲家ヴァルダン・オヴセピアン(Vardan Ovsepian)の楽曲。2014年のデュオ作『Lighthouse』からの再演となっている。原曲からは少しテンポを落とし、丁寧に歌い演奏される旋律はあまりに美しい。
クレジットには名前がないが、レア・フレイリ(Léa Freire)作曲の(5)「pintou um grilo」で聞こえるフルートの演奏は今作で録音エンジニアを務めているアレシャンドリ・アンドレス(Alexandre Andres)だろうか。
アルバムにはほかにもバラエティ豊かな曲が多数取り上げられている。(7)「mirada al sur」と(14)「amar hasta el misterio」とはチリのピアニスト/作曲家カリーナ・コントレラス(Karina Contreras)作曲、(11)「valsa」はポーランドのヴァイオリン奏者/作曲家グラジナ・バツェヴィチ(Grażyna Bacewicz)作曲、(13)「carossel」はドイツのオリヴィア・トルンマー(Olivia Trummer)の作曲だ。
Tatiana Parra プロフィール
タチアナ・パーハは1980年ブラジル・サンパウロ生まれ。5歳の頃からサンパウロのいくつかのスタジオで広告ソングを歌うなど早くからキャリアを形成してきた。音楽家/プロデューサーのエリオ・ジスキンド(Hélio Ziskind)とともにジングルや子供向けCDを録音し、10代でコンクールで賞を受賞している。
数多くのアルバムにヴォーカリストとして参加したのち、2010年に『Inteira』でソロデビュー。オーガニックで気品ある歌声は日本でも話題となり、たちまち現代ブラジル音楽を象徴するシンガーとして人気となった。アルゼンチンのピアニスト、アンドレス・ベエウサエルトとのデュオ作『Aqui』やアルメニアのピアニスト、ヴァルダン・オヴセピアンとのデュオ作『Triptych』といった“声とピアノ”の諸作品でも知られている。
Erika Ribeiro プロフィール
ピアニストのエリカ・ヒベイロは1982年生まれ。ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で学び、サンパウロ大学で音楽の修士号を取得しており、現在はリオデジャネイロ連邦大学(UNIRIO)でピアノと室内楽の教授を務めている。
リオデジャネイロを拠点に主にクラシック・ピアノの分野で活動し、これまでにブラジルの10のピアノコンクールで優勝し、20以上のピアノコンクールで入賞を果たし、母国ブラジルだけでなく、ヨーロッパや米国でも幅広く演奏してきた。
彼女の音楽は「私の世代にとって、一般的にクラシックやポピュラーといった音楽につけられているレッテルを再考し、音楽の真の本質を知ることが重要だと思っている」との考え方に根差しており、大学では「エグベルト・ジスモンティの音楽におけるピアニズムとその要素」というテーマで博士論文を書いた。Naxosからのデビュー作『Images of Brazil』(2018年)では、“クラシック”に分類させるカマルゴ・グァルニエリ(Camargo Guarnieri)、セーザル・ゲーハ=ペイシェ(César Guerra-Peixe)、エイトル・ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos)らに混ざって通常はポピュラー音楽に分類されるレア・フレイリが選曲されており、彼女のジャンルに捉われない視野を反映している。
Erika Ribeiro – piano, vocal
Tatiana Parra – vocal