クレズマー・クラリネットの雄、Yom新譜『Alone in the Light』
フランスのクレズマー・クラリネット奏者ヨム(Yom)は、2021年の傑作『Celebration』と同じくピアニストのレオ・ジャセフ(Léo Jassef)とデュオを組んだ新作『Alone in the Light』で、歴史の影を背負い生きる人々の孤独に焦点をあてる。
彼はこれまでも旧約聖書の『出エジプト記』をテーマにした『Le silence de l’exode』などで、クレズマー音楽を演奏するなかで探求してきたユダヤ人のルーツを表現し続けてきた。示唆に富むタイトルが付けられたこれらの楽曲は、時に凪の水面のように穏やかに、時に内なる炎を燃え上がらすように激しく演奏される。震え、咽ぶクラリネットの音色は常にもの悲しさが漂う。レオ・ジャセフのピアノはそんなクラリネットに静かに寄り添っている。
(2)「Endless Night」や(4)「Alone in the Light」、(9)「Le Temps Retrouvé」などで見せる魂を剥き出しにした即興演奏には、強く胸を打たれる。
ユダヤ系クラリネット奏者、ヨム
Yomことギヨーム・ユメリー(Guillaume Humery)は1980年フランス・パリ生まれ。5歳の頃にセルゲイ・プロコフィエフの子供のための音楽物語『ピーターと狼』を聴いてクラリネットを吹きたいと両親に懇願し、最初はリコーダー、そして次に念願のクラリネットを習ったという。1990年にパリの音楽院に入学、1997年にはクラリネットのコンクールで最優秀賞を受賞している。
ユダヤをルーツに持つ彼はその後クレズマー音楽に傾倒。2001年にOrient Express Moving Shnorersというグループに参加し『Klezmer Nova』をリリース、2007年までツアーに帯同。
以降はソロ活動や自身のバンドでの活動を行い、2008年に自らのアイドルであり伝説的なクレズマー・クラリネット奏者ナフトゥール・ブランドヴァイン(Naftule Brandwein, 1884 – 1963)への敬意を込めつつ新世代のクレズマー・クラリネットの王者の誕生を高らかに宣言する『New King of Klezmer Clarinet』でソロデビューを果たしている。
これまでにトランペット奏者のイブラヒム・マアルーフ(Ibrahim Maalouf)、フランス在住中国人口琴奏者のワン・リ(Wang Li)、教会オルガン奏者バティスト・フロリアン・マール・オブラード(Baptiste-Florian Marle-Ouvrard)といったユニークな共演も多数。フランス随一のターキッシュ・クラリネット奏者としてその名を馳せている。
Yom – clarinet
Léo Jassef – piano