マリアナ・ヂ・モライスが偉大な祖父に捧げるヴィニシウス作品集
偉大な詩人ヴィニシウス・ヂ・モライス(Vinícius de Moraes, 1913 – 1980)を祖父に持つブラジルの歌手マリアナ・ヂ・モライス(Mariana de Moraes)が自ら選曲したヴィニシウス作品集『Vinicius de Mariana』がリリースされた。祖父の詩と、バーデン・パウエル、エドゥ・ロボ、シコ・ブアルキ、カルロス・リラ、そしてジョビンやピシンギーニャといった作曲家たちによる素晴らしい楽曲たちを生前のジョアン・ドナート(João Donato, 1934 – 2023)らによる豊かなアレンジで新たに蘇らせている。
アルバムはサンバのフィーリングがたっぷりなバーデン・パウエル(Baden Powell, 1937 – 2000)作曲の(1)「Canto do Caboclo da Pedra Preta」で始まる。バーデン・パウエルとヴィニシウスが組んだ名盤『Afro Sambas』(1966年)からは今作で3曲が取り上げられており、相当のお気に入りなのだろう。
同じくバーデン・パウエルの代表曲にも挙げられる名曲(2)「Canto de Xangô」にはシコ・ブアルキの孫娘で歌手のクララ・ブアルキ(Clara Buarque)と、ペルナンブーコ出身のSSWゼ・マノエウ(Zé Manoel)がゲスト参加。豊かな木管の響きとアフロ・ブラジルのリズム、メロディーやハーモニーに漂うサウダーヂが堪らない素晴らしいアレンジだ。
(3)「Maria Moita」(無口なマリア)はカルロス・リラ(Carlos Lyra)作曲。歌詞では男尊女卑の古い社会の不平等が描かれており、マルチナリア(Mart’nalia)やジュサーラ・シルヴェイラ(Jussara Silveira)、カミラ・ピタンガ(Camila Pitanga)がヴォーカル/コーラスで参加。時代は変わり、“マリアたち”は声を上げ始めた。
アルバムのラストはヴィニシウスがもっとも尊敬したピシンギーニャ(Pixinguinha, 1897 – 1973)作曲のサンバで、まさに大円団といった感じだ。
いくつかのトラックではヴィニシウス本人の声も聞こえる。日本ではジョビン、ジョアン・ジルベルトとともに“ボサノヴァの創始者”と広く知られるヴィニシウス・ヂ・モライスだが、この作品を聴くと、決してボサノヴァの枠には収まりきらない、ブラジル文化の精神性を支え、人々から愛され続ける詩人としての偉大な軌跡を感じることができる。
Mariana de Moraes プロフィール
マリアナ・ヂ・モライスは1969年リオデジャネイロ生まれの女優/歌手。カエターノ・ヴェローゾやガル・コスタらが頻繁に訪れる家に生まれ育った彼女は、自然とそうした音楽家たちから影響を受けた。5歳のときから映画にも出演し、1986年にダヴィド・ネヴェス監督の映画『Fulaninha』に主演したことで女優としてブレイクしている。
音楽の分野では10代の頃からピアノと歌唱を学び、2001年に『Mariana de Moraes』でソロデビュー。
今作は2014年の『Desejo』以来9年ぶりの新作となる。