Autostrad ──想像を絶する凄まじいエネルギーでアラブ諸国を照らすヨルダン発のバンド。

Autostrad 2011

エネルギーの塊のようなヨルダンのバンド、Autostrad

ヨルダンの首都アンマンで2007年に結成されたアウトストラッド(Autostrad)はロック、レゲエ、ラテン、ファンク、ジャズ、アラブ伝統音楽を組み合わせたバンド名「高速道路」のとおりの疾走感のある音楽をアラビア語のヨルダン方言で歌う、アラブ圏で非常に人気のあるバンドだ。アラビア語圏を中心に各国でツアーを行なっているが、2014年にはイギリス・ロンドンでも演奏をした。

そんな彼らの魅力がもっともストレートに伝わる作品が2011年のセルフタイトルの2ndアルバム『Autostrad』だ。(1)「Ana Bukra M3atel」はバルカン・ブラスのような狂乱が楽しすぎる彼らの代表曲で、歌詞を翻訳すると「明日は機能障害だ/そうなればずっと続く」「俺は喫煙しないが大酒飲みだ/やめる必要がある」といった文句が延々と続いており、健康を気にしながらも酒が辞められない男の歌かと思うとどういうわけか親近感が湧く。

(1)「Ana Bokra Ma’atel」

彼らの音楽は戦争、薬物、貧困、失業といった社会的問題から恋愛、日常、アイデンティティの探求など幅広いが、全体には楽観主義が漂う。どんな人生でも未来でも受け入れる、ただ今を全力で生きたい──そんな想いが伝わってくる。そしておそらくは、この種の音楽を人々が強く望んでもおり、だからこそ彼らは熱く支持されるのだろう。

Autostradを率いるのは1977年生まれのギタリスト/リードヴォーカルのヤザン・アル・ルーサン(Yazan Al Rousan)。バンドで使われる楽器はギター、ベース、ドラムス、キーボード、サックスなど完全に西洋音楽のそれだ。音楽理論も西洋音楽のものを踏襲。それでもアラビア語の幾重にも積み重なるヴォーカルやコーラス、シンセやサックスのソロで時折現れる中東音楽的なフレーズやビブラートの効かせ方は紛れもないAutostradの個性だ。

今作は7曲入りのアルバムだが、そのどれもが尋常ではないほどのエネルギー、生命力に溢れている。(3)「Kul Yom」や(5)「Galbi」も痺れるほどのかっこよさ。

(5)「Galbi」

バンドは中東を度々ツアーしているが、その行動は時には論争を巻き起こしている。
2013年に行われたイスラエル/パレスチナ地域のゴラン高原、ナザレ、ハイファ、ラマラ、エルサレム旧市街を含む彼らのツアーは、アンマンのイスラエル大使館が発行したビザを使用してヨルダン川を渡った事実により、バンドがイスラエルとの関係を“正常化”しようとしたと批判された。これに対し、バンドのギタリスト、ハムザ・アルナウト(Hamzeh Arnaout)はこの方法でビザを取得することが唯一の選択肢だと述べ、「我々はヨルダン人でありパレスチナ人であり、これが祖国パレスチナに入る唯一の方法であり、誰も私たちの行動を止めることはできない」と反論している。

Autostrad 2011
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