トルコから現れたピアニスト/作曲家そして空間デザイナーの肩書きも持つ魅惑の女性音楽家、ビュシュラ・カイクチャ新作『Places』

Büşra Kayıkçı - Places

トルコの音楽家/建築デザイナー、ビュシュラ・カイクチャ新作

トルコ・イスタンブールの作曲家/ピアニスト/建築デザイナーのビュシュラ・カイクチャ(Büşra Kayıkçı)は、新作アルバム『Places』でその驚くべき才能をあらためて世界に広く示した。ポーランドの鬼才スワヴェク・ヤスクウケ(Sławek Jaskułke)をも彷彿させるアンビエントな深い音響と余韻のピアノで、建築学を学びそれを作曲にも投影する彼女独自の哲学と音楽観を表現している。

この独特の空間的な音楽は、彼女が今もインテリア・アーキテクチュア・デザイナーとして働いていることにも大いに関係している。彼女にとっては建築も音楽も、空間を創ることなのだ。「建築家やエンジニアだけが建設を行えるわけではありません。作曲家は楽器で雰囲気をデザインし、リスナーを都市、庭園、風景に連れて行きます」ビュシュラ・カイクチャはそう語る。

(2)「Fernweh」

彼女が弾くピアノは、パールリバー(Pearl River)[*]というブランドで、中国最大のピアノメーカーである広州珠江鋼琴集団の楽器だ。このピアノは彼女がピアノを習い始めた9歳の頃に両親が買ってくれたものだといい、それ以来ずっと彼女の愛機となっている(彼女はこのピアノを“古い友人”と呼んでいる)。

[※]パールリバー…中国最大のピアノメーカー、広州珠江鋼琴集団の海外向けブランド。ヤマハは1995年にパールリバーと合弁事業を作り、中国市場向けのピアノを製造するための工場を設立した。2005年以降、スタインウェイ&サンズの「エセックス」シリーズの製造も担っている。

今作ではそのパールリバーのアップライトピアノと、演奏者であるビュシュラ・カイクチャがピアノを操る中で生まれたあらゆる音が克明に記録されていることがとても印象深い。どういったマイキングを施しているかは分からないが、ピアノのハンマーが弦を叩く音だけではなく、ピアノのあらゆる部分から出る音を拾った、“音楽”の定義を拡張するようなサウンドは素晴らしく魅力的だ。

(6)「Quba」

Büşra Kayıkçı 略歴

ビュシュラ・カイクチュは1990年トルコ・イスタンブール生まれ。9歳でピアノと音楽理論を学び始め、それから10年間、音楽だけでなく絵画やクラシックバレエ、演技などのさまざまな分野の芸術のレッスンを受けた。2007年にインテリア・アーキテクチュアと環境デザインを学ぶために大学に通い、卒業後は3年間ほどいくつかの建築事務所で働いたあと、自身の建築デザイン事務所を立ち上げたという。その間も彼女はピアノのためのネオクラシック音楽やミニマリズム音楽の作曲を続け、音楽と建築デザインから相互にインスピレーションを受け、それぞれに反映した活動を行っている。

2019年11月、彼女はシングル『Doğum』(トルコ語で「誕生」の意味)をシングルでリリースし、すぐに9曲のミニマルなソロ・ピアノ曲を集めたデビュー・アルバム『Eskizler』(トルコ語で「スケッチ」の意味)をリリースした。

影響を受けた音楽家としては、ジョン・ケージ(John Cage)やニルス・フラーム(Nils Frahm)の名を挙げ、さらにエレクトロニック・ミュージックやポストジャズを挙げている。

ビュシュラ・カイクチャのインタビュー動画。

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