先月には、ヒタ・リー（Rita Lee｜本年5月に他界）の楽曲「Doce vampiro」をカバーしたシングルをリリースしていたMPB界の女神的存在のマリーザ・モンチ（Marisa Monte）が、前作アルバム『Portas』のリリースツアー（2022年&2023年）の音源の中から、ツアー基本のセットリスト以外で取り上げたレアな楽曲7曲をまとめたアルバムをリリースした。タイトルは『Portas raras』で、まさしく「レアな『Portas』」という意味合いだ。また「Portas」は「扉」という意味である。
7曲中5曲は、カバー楽曲で、基本的にはセットリストに入っていなかったが、特定の都市で、その土地で生まれた音楽家へのオマージュとして演奏された楽曲だった。
冒頭に収録されたのは、三大ブラジリアン・ソウルの偉人の一角、カシアーノ（Cassiano｜1943 – 2021）のソウル・バラード「A Lua e Eu 」のカバーです。作家としてはチン・マイアへの提供曲でヒット曲を生んでいましたが、歌手としてのカシアーノとしては、この「A Lua e Eu 」が最初のヒット曲でした。 当時の他のヒット曲と一線を画す洗練されたハーモニーと、実存主義的な歌詞が特徴的な曲です。2022年4月に、カシアーノの故郷であるパライーバを訪れた際に、取り上げました。
Mais um ano se passou
E nem sequer ouvi falar seu nome, a lua e eu
また1年が経ってしまった
君の名前を聞くこともなかった、月と私だけCaminhando pela estrada
Eu olho em volta e só vejo pegadas
Mas não são as suas eu sei,
Eu sei, eu sei
O vento faz eu lembrar você
As folhas caem mortas como eu
通りを歩いて
周りを見渡しても足跡しか見えない
でもそれは君の足跡ではないことを
私はわかっている、わかっている
風に吹かれて君を想う
落ちていく枯葉はまるで私Quando olho no espelho
Estou ficando velho e acabado
Procuro encontrar
não sei onde está você
Você você….
o Vento faz eu lembrar você
As folhas caem mortas como eu…
A lua e eu
鏡を見ると
私は老いて終わっている
探そうとするけど
君がどこにいるか私は知らない
君よ君よ
風に吹かれて君を想う
落ちていく枯葉はまるで私
月と私だけ…
（「A Lua e Eu」作詞作曲：Cassiano / Paulo Zdanowski｜1975年）
3曲目に収録された「Felicidade」も作者の出身地で、2022年9月に歌われた。作者のルピシニオ・ホドリゲス（Lupicínio Rodrigues｜1914 – 1974）は、ブラジル南部のポルト・アレグリ出身だ。
「A vida do viajant」（Luiz Gonzaga & Hervê Cordovil）と「Lamento sertanejo」（Dominguinhos & Gilberto Gil）というフォホーの2曲は、ポルトガルのリスボンでの演奏で、カエターノ・ヴェローゾ作の「O leãozinho」を、ウルグアイ出身のSSWホルへ・ドレクスレル（Jorge Drexler）どデュエットしたのも、リスボン公演だった。「O leãozinho」は、マリーザのバンドのメンバーでもあるダヂ（Dadi）について歌った歌だ。
以上5曲のカバー曲の他の、「Seo Zé」 （Carlinhos Brown, Marisa Monte & Nando Reis） と「Pernambucobucolismo」 （Marisa Monte & Rodrigo Campello）は、マリーザ・モンチの作品。マリーザの新譜でその歌声を堪能して、耳に栄養を与えるものとても良い時間の過ごし方だ。間違いない。