ジャズ・ハープの新たな可能性を切り拓く! エジプトにルーツを持つ女性エレクトリック・ハープ奏者のデビュー作『Passing By』

Harper Trio - Passing By

マリア=クリスティーナ・ハーパー、ジャズ・ハープの歴史に新たなページを刻むデビュー作

エジプトにルーツを持つギリシャ生まれのハープ奏者、マリア=クリスティーナ・ハーパー(Maria-Christina Harper)が、イギリスのサックス奏者ジョセフィン・デイヴィス(Josephine Davies)と、ニュージーランド生まれでロンドンで活躍するドラマー、エヴァン・ジェンキンス(Evan Jenkins)とのトリオ「ハーパー・トリオ(Harper Trio)」で野心的なデビュー作『Passing By』をリリースした。

ハープ奏者の名前がハーパー(Harper)。なんとも出来過ぎでステージネームかと思ったが、どうやら本名らしい。彼女はギリシャ・アテネとイギリスの王立アカデミーの両方でクラシックピアノとハープを学んだが、クラシック音楽が音楽表現に与える機会の乏しさに不満を感じていた。即興演奏を奨励する音楽療法を学ぶなかでジャズを見つけ、その可能性の中に身を置くようになった。

ジャズの絶え間ない歴史の中でも、著名なハープ奏者というのは数えるほどしかいないのが現実だ。そして私の貧相な知識から思い出す限りでは、その全員が女性だ(エドマール・カスタネーダ、ごめんなさい──あなたの楽器は「アルパ」ですよね)。これはハープ(グランドハープ)という楽器の特殊性と、ジャズが明らかに男性優位の世界であったことと関連があるかもしれない。

マリア=クリスティーナ・ハーパーがジャズ・ハーピストを目指すことになった重要なきっかけのひとつは、ジョン・コルトレーンの妻でハープ奏者のアリス・コルトレーン(Alice Coltrane)の名盤『Journey In Satchidananda』(1970年)だったという。ジャズにおいてほかの数多くの楽器が新しい時代の中で優れた奏者を次々と輩出する中、ハープの最高峰はアリス・コルトレーンあるいはドロシー・アシュビーといった半世紀も前のミュージシャンからなかなか更新されないように感じるが、アリス・コルトレーンの斬新でスピリチュアルな表現は、今作にも確かに受け継がれている。

マリア・クリスティーナはエレクトリック・ギターのように電気的な増幅を可能としたエレクトロ・アコースティック・ハープを操り、エフェクターによる表現も手に入れてハープの新しい可能性を追求する。自身のルーツに言及する(2)「In Cairo / Grandma’s Coat」でのハープの表現はなかなかセンセーショナルだ。音楽的な表現力を損なわずに彼女の内にあるパンク精神を体現したような控えめ歪みやワウのエフェクトは今作の象徴的なサウンドと言って良いだろう。ジョセフィン・デイヴィスが奏でる旋律も含め、アラビックな表現もこれまでのジャズ・ハープではなかなか聴くことができなかった斬新さがある。

(5)「Passing By」

全曲がマリア=クリスティーナ・ハーパーの作曲。
全体的にスピリチュアルで瞑想的なサウンドの印象が強いアルバムだが、単に聴き流せるようなものではない“引っ掛かり”を感じさせる。歴史を踏襲し、現代を生きる新世代の感性で新たな価値観を創出しようとする気概を感じる作品だ。

ジャズ・ハープの可能性はまだまだ無限だ。
ジャズにおけるブルー・オーシャンは、こんなところにあった。

Harper Trio :
Maria-Christina Harper – electro-acoustic harp, effects
Josephine Davies – soprano saxophone, tenor saxophone
Evan Jenkins – drums

関連記事

Harper Trio - Passing By
Follow Música Terra