イスラエル・サイケ新星ギタリスト、YUZ デビュー!独創的で圧倒的な必聴盤!

Uriah Witztum & YUZ - Mono Moon

イスラエル・サイケ新世代、YUZことウリア・ウィツタムのデビュー作

イスラエル・エルサレム出身、テルアビブ在住のギタリスト/作曲家、YUZことウリア・ウィツタム(Uriah Witztum)の音楽が最高に面白い。2022年のデビューアルバム『Mono Moon』はユダヤ、アラブ、そして西洋の文化が交差するこの土地らしいプログレッシヴかつ非常に高度な音楽性で、予想できない展開の独自の音楽を確立した興味深い作品だ。

彼の音楽を何らかのジャンルに分類しようとする行為は非常に愚かしい。強いていうならアラビック・サイケデリック・プログレッシヴ・ジャズロックといったところだろうか…。アラビアやアナトリア、さらにはYUZ自身がギターだけではなくブズーキを弾いているようにギリシャの文化も感じられるし、ジャズやファンクもしっかりと根付いている。全体としてオリジナリティに溢れ革新的だが、それを形作る幾つもの細かなアイディアはすべて伝統的な既存の音楽の強固な礎の上に成り立っている。要は、既存の様々な音楽への深い造詣がありながら、それらを自らの中に吸収し、高い次元でミックスした音楽をアウトプットしているのがこのYUZという音楽家というわけだ。

(1)「Galgalit」

アルバムの幕開けである(1)「Galgalit」を聴けばきっと、すぐさま彼の得体の知れない驚くべき才能に気付かされるだろう。謎めいていて魅力的な旋律とダンサブルで強烈なビートで始まるが、唐突にテンポダウンしシンセサイザーと弦のトレモロ奏法による奇天烈な音空間に導かれる。シンセサイザーによるソロのあと、最後は元のアップテンポのバルカン音楽風のビートに戻るという展開(これ、楽しすぎる!)。

すべての作編曲はYUZ(ウリア・ウィツタム)。(2)「Karkom」以降も驚きに満ちた楽曲が次々と展開され、YUZというアーティストの独創的な世界観に深く深く引き摺り込まれる。気づけば、そこは沼だ…。

(2)「Karkom」のライヴ演奏

本作は2022年に録音されリリースされたYUZのデビュー作だが、彼は2023年12月には3曲入りのシングル『Dirt』もリリース。こちらも素晴らしく魅力的な仕上がりとなっている。

人口比で世界一音楽家が多いと言われるイスラエル。彼の地の音楽は常に平均的なレベルが高く、突出した才能も稀ではない。当サイトでは長らくイスラエルの音楽を数多く紹介してきたが、このYUZというアーティストは今現在、その中でもトップクラスに面白い音楽家であることは間違いないだろう。
…しかし、現状ではこの才能についてヘブライ語を解さない者が知ることができる情報はインターネット上では限られてしまっている。そこで、SNSを通じて彼に直接コンタクトを試みてみたところ、快くバイオグラフィを教えてくれた。

次に掲載するインタビューの内容は、彼のこの独創的な世界観の背景にあるものを知る手掛かりとなるだろう。

(5)「Reyhan」

YUZ インタビュー

── あなたの生い立ちについて教えてください。

YUZ 僕が生まれ育ったエルサレムは、イスラム教徒とユダヤ教徒の間の緊張に満ちた場所だったけど、この緊張感こそがアラビアとヘブライの文化をギター演奏と作曲で彩るインスピレーションを与えてくれたんだと思っている。僕はこれらの相反する側面は、ユニークな芸術を生み出す大きな可能性を秘めていると信じているんだ。それは時に僕の最初のシングル「Dirt」のように過激だけど、時にAlexandra」や「Zebekiko of Tikva」のようにとても穏やかで心地がいい。

── これまでにどのような音楽に影響を受けてきたのですか?

YUZ 僕の音楽のインスピレーションに関して言えば、オールドスクールな中東音楽と弦楽奏者、例えばアリス・サン(Aris San)*1、ゾハール・アルゴフ(Zohar Argov)*2、オマール・クルシッド(Omar Khourshid)*3が大好きだよ。

*1 Aris San(1940 – 1992)… 1950年代後半から1960年代にイスラエルでギリシャ音楽を広めたギリシャ系イスラエル人の男性歌手およびナイトクラブのオーナー。17歳でアテネからイスラエルへ渡り、歌で成功を収めた。代表曲は「Boom Pam」。
*2 Zohar Argov(1955 – 1987)… イスラエルでは“ミズラヒ音楽の王”として広く知られている男性歌手。しかし、強姦の有罪判決と容疑によりイスラエル文化の中で評価が二分されている人物でもある。
*3 Omar Khourshid(1945 – 1981)… エジプトのギタリスト/作曲家/俳優。サーフギターとアラビック・サイケの融合で成功した、アラブ全土のスター。1981年に交通事故によって亡くなっている。

YUZ トルコやギリシャの音楽は複雑なことが多いけど、コミュニケーションに富んでいて、僕にとっては本当にエキサイティングなんだ。ステリオス・カザンジディス(Stelios Kazantzidis)*4、イブラヒム・タトリセス(Ibrahim Tatlises)*5、ソティリア・ベール(Sotiria Bellou)*6はよく聴いた。

*4 Stelios Kazantzidis(1931 – 2001)… ギリシャ歌謡“ライカ”を築き上げた、アナトリアにルーツを持つ歌手。彼の歌はヘブライ語に翻訳され、イスラエルでも広く演奏され、そして聴かれた。
*5 Ibrahim Tatlises(1952 – )… アラブ・クルド系トルコ人のフォーク歌手/俳優。1970年代以来、ポップ・アラベスク・スタイルで最も成功した歌手のひとり。
*6 Sotiria Bellou(1921 – 1997)… エーゲ海西部エヴィア島に生まれたギリシャを代表する女性歌手。1940年代初めに見いだされ、90年代の後半まで、最も名の知れたギリシャ大衆歌謡(レベティコ)の歌手のひとり。

── 地中海沿岸地域の様々な音楽の影響があるのですね!
それ以外ではどのようなジャンルの音楽を?

YUZ そうですね、サイケデリック・ロック、スペース・ロック…例えば初期ミューズ(Muse)、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード(King Gizzard & The Lizard Wizard)、初期のピンク・フロイド(Pink Floyd)。

クラシックではドビュッシー(Debussy)、ショパン(Chopin)、ベートーベン(Beethoven)。
電子音楽のエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)、プロディジー(Prodigy)、そしてイスラエルのインフェクテッド・マッシュルーム(Infected Mushroom)にも影響を受けていると思う。

ジャズではビル・エヴェンス(Bill Evans)、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)、チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)。
映画音楽のエンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)も大好きだよ。

YUZ いずれにせよ、僕にとって一番大きなインスピレーションは、ギターを探求して奇妙なサウンドを見つけることだね。

YUZ (Uriah Witztum) – guitar, bozouki, keyboards
Noam Havkin – keyboards
Yonatan Haringman – keyboards
Yohana Rittemuler – violin
Zohar Barzilai – drums
Itay Ella – drums
Gur Shpiegel – percussion

Uriah Witztum & YUZ - Mono Moon
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