オランダに移住したイスラエル人音楽家、アヴィシャイ・ダラシュ『希望と絶望のあいだ』

Avishai Darash - Between Hope and Despair

時代の混乱が音楽に反映された、アヴィシャイ・ダラシュ新譜

前作『Andalusian Love Song』(2022年)では地中海を取り囲む諸国の出身者による多国籍ラージアンサンブルを率い刺激的なエンターテインメントを提示したイスラエル出身の作曲家/鍵盤奏者アヴィシャイ・ダラシュ(Avishai Darash)が、今度はピアノトリオにトランペットを加えたカルテットによるアルバム『Between Hope and Despair』をリリースした。

(1)「Between Hope and Despair」

彼自身は2010年にイスラエルを離れオランダに移住しているが、祖国の昨今の状況を鑑みれば、やはり様々な想いが去来したのだろう。彼は今作について“音楽という言語を通じて自分の視点を表現し、団結と愛の遺産に貢献する方法を見つけた”と語っている。アルバムに収録された9つの楽曲は音楽として非常に美しく、彼らしくジャズ・エンターテインメントとしての魅力も最大限に発揮されているが、タイトルだけを並べてみると激しい混乱が垣間見える。

パンデミックと戦争の影響は(3)「Don’t Think, Dance」に現実逃避の形で表れ、インターネットを介して世論が形成されることへの危機感は(5)「Echo Chamber」に直情的にぶつけられる。(7)「The Old Days」も懐古主義的(それが悪いとは思わないが)だし、(8)「The Sage」でどこかの賢者に縋り問題の解決を求めたくなる気持ちもわかる。

そうした複雑な感情はタイトル曲である(1)「Between Hope and Despair」に集約されている。
人間は考える葦であるかもしれないが、所詮、葦は葦なのだ。

Avishai Darash – piano, Rhodes
Antonio Moreno Glazkov – trumpet
Ivan Ruiz Machado – bass
Shayan Fathi – drums

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