デンマークのデュオ・プロジェクト、Art Roho 3枚目のアルバム
ベーシストのヤコブ・ローラン(Jakob Roland)とドラマーのヘンリック・ホルスト・ハンセン(Henrik Holst Hansen)のデュオ、アート・ローホ(Art Roho)は過去2作でいずれもサックス奏者とのトリオを組んできた。最初のリリースである『Moonglow』(2020年)はベテランのテナー奏者ニールス・フリッパー・スチュアート(Niels Flipper Stuart)、そして2枚目の作品『Art Roho Serving Hannes Bennich』(2023年)ではスウェーデンの若手アルト奏者ハンス・べニッチ(Hannes Bennich)を招き、それぞれの奏者が持つ世界観の魅力を最大限に演出するサポートを披露。そうした経緯から、Art Roho はデュオのみでの演奏というよりは、他のソリストを迎え、変幻自在にそのソリストの個性を引き出すような役割を担うというコンセプトを持っていることがわかる(商業的な観点からも、このアプローチは正解だと思う)。
2024年リリースのArt Rohoの3枚目のアルバム『Art Roho serving Mads Søndergaard』は、デンマーク・コペンハーゲン出身のピアニスト、マッツ・ソンダーガード(Mads Søndergaard)を迎え入れ、従来の彼らの作品とは全く印象の異なるものに仕上がっている。
このピアニストはデンマークのジャズ・シーンでサイドマンとしてはよく知られているが、彼をソリストとしてフィーチャリングした作品はこれまでに存在していなかった。アルバムのプロデュースも行うArt Rohoの2人はマッツ・ソンダーガードに存分に目立ってもらうための場を整え、実際にその結果は面白いものになった──。
ギリアン・ウェルチ(Gillian Welch)のカヴァーである(1)「Dark Turn of Mind」を聴けば、もうその成功は明らかだ。
素朴かつエモーショナルなコード進行のジャズは、レジェンド、キース・ジャレット(Keith Jarrett)のヨーロピアン・カルテットをも彷彿させる。ピアノのタッチの繊細なニュアンスはベースやドラムスにも影響を与え、奇跡的な5分38秒を作り上げている。このオープニング・トラックは最高だ。
アルバムにはカヴァーが多く収録されている。
レノン&マッカートニー(John Lennon & Paul MacCartney)の(5)「Because」、アーヴィング・バーリン(Irving Berlin)作のジャズ・スタンダードの(8)「The Best Thing For You」、アリー・リューベル(Allie Wrubel)による(10)「Gone With The Wind」(風と共に去りぬ)などなど、選曲も興味深い。
オーセンティックかつ、北欧ジャズの魅力を湛えた作品として最高の一枚だ。
噂によると、彼らはすでにいくつかの次のリリースを控えているという。
Jakob Roland – bass
Henrik Holst Hansen – drums
Mads Søndergaard – piano