ナチュラルで美しい声をもつシンガー後藤杏奈、洋楽を中心に珠玉のカヴァーを歌うデビュー作

後藤杏奈 - Departure

後藤杏奈、どこまでも澄んだ声で魅せるデビュー作『Departure』

初めてその歌声を聴いたときから、歌手としての並外れた才能を感じた。

八王子市出身のシンガー、後藤杏奈(Goto Anna)。ブルガリアへの留学や船での世界一周など豊富な国際経験をもつ彼女のデビューアルバム『Departure』は、“歌唱力”の一言では括ることのできない魅力が凝縮された作品となった。

その歌手としてのスケールの大きさに反し、本人はどこかあっけらかんとしている。ずっと歌手を目指して活動していたわけではなく、歌は幼い頃からただ傍に、日常の生活の中にあったものだった。父親はアマチュアのギタリスト/シンガーで、自宅には様々な楽器や機材を揃えた“音楽室”があった。父親の大親友である飯室博は1980年代より活動するプロのギタリストで、矢沢永吉や徳永英明、甲斐よしひろ、財津和夫、チャゲ&飛鳥といったミュージシャンのサポートで知られる凄腕だが、杏奈が生まれた頃から父と飯室はよく自宅などで演奏を楽しんでいたという。その影響もあり彼女も幼少時から生の演奏に触れ、邦楽・洋楽などさまざまな音楽にごく自然に触れながら育っていった。

大学時代に内閣府の国際交流事業のひとつである「世界青年の船」やNGOの「ピースボート」に通訳やコーディネーターとして乗り友人の輪を世界中に広げながら、船の中のイベントで歌う機会を得たことで音楽の道へ進む意識が徐々に芽生え始めた。また長い洋上生活を経て自然環境への意識を高め、ヨットクルーの見習いとして長期航海に2度参加した。ヨットによる航海は、気候変動に関わる学びだけでなく、音楽や死生観にも関係する自身の根本的な気づきを得られた体験だったという。 2020年に音楽を心から愛していた父を病気で亡くし、死というものに対し深く向き合ったことも大きな出来事だった。その頃から音楽SNSアプリ『Nana』で歌の投稿を開始。これがデビューへと繋がっていった。

ショーロクラブやSaigenjiなどの諸作品を生んだ渋谷のレーベル「ハピネスレコード」の事務所にて、アルバムデビューの話は驚くほどとんとん拍子で進んだ。2022年末に録音を終え、2023年夏にフィジカルCDをリリース(リリース時に本人は日本におらず、3回目の世界一周の船旅中だったというのも彼女らしいエピソードだ)。
2024年2月に行われたデビューライヴはすぐに70席が満席になった。その中で堂々と歌う彼女の佇まいはすでにディーヴァだったが、同時にその雰囲気には身内のような親しみやすさも感じさせた。そうした飾らなさもまた後藤杏奈というシンガーの魅力なのだ。

今回のデビューアルバム収録の7曲はすべてカヴァーで、洋楽を中心に珠玉の楽曲が選択されている。
演奏には前述の飯室博(彼女は父親と同年代の彼のことを「飯室くん」と呼ぶ)や鍵盤奏者の海老原真二(岡村孝子や荻野目洋子のバンマスであり、喜多郎とも活動)、ニュージーランド出身のジャズピアニストのエリア・ガイタウ(Elia Gaitau)などが参加。多くがデュオなど最小限の編成で、後藤杏奈の歌を際立たせている。

アルバム『Departure』のEPK

アルバムのレコーディングは極めて短期間で行われ、彼女の希望により録音後もほとんど手が加えられていない。そのため、彼女の人柄そのものが温かく穏やかで親密な音楽となって表れている。

“旅立ち”を意味するアルバムタイトルが示すとおり、航海は始まったばかりだ。彼女の歌も現時点でも充分すぎるほど個性的で魅力的だが、これからまだまだ進化するだろう。舞台は日本だけではない。海でつながる世界が、後藤杏奈のステージになるはずだ。

1. Dreams (The Cranberries)
2. For the Love of You (The Isley Brothers / Joss Stone)
3. Colors (The Black Pumas)
4. How Deep Is Your Love (Bee Gees)
5. 青月浮く海 (大橋トリオ)
6. Mana (Mayra Andrade)
7. Both Sides Now (Joni Mitchell)

後藤杏奈 – vocal
飯室博 – guitar (1, 3, 7)
海老原真二 – piano (5)
Elia Gaitau – Rhodes (2)
田方春樹 – guitar (4, 6)
山下あすか – percussion (6)

関連リンク

『Departure』 後藤杏奈|Happiness Records

後藤杏奈 公式サイト

後藤杏奈 - Departure
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