ナタリー・クレスマン&イアン・ファキーニ、師ギンガへのトリビュート作
唯一無二の音楽的パートナーシップを築いてきたデュオである米国サンフランシスコ生まれのトロンボーン奏者ナタリー・クレスマン(Natalie Cressman)と、ブラジル・ブラジリア生まれのギタリスト/作曲家イアン・ファキーニ(Ian Faquini)の新作『Guinga』は、2人がこれまでに最も影響を受けた音楽家であるブラジルのレジェンド、ギンガ(Guinga)曲集だ。
本作は単に2人がギンガの楽曲を演奏するだけのものではなく、なんとギンガ本人が15曲中5曲で参加しており、トリビュート・アルバムの範疇を超越した内容となっている。
特にギンガに直接師事していたイアン・ファキーニはこれまでの作品の中でもその影響を隠そうとせず、作曲もギターの演奏スタイルも“ギンガ直系”そのものであっただけに、この師弟共演は感慨深いものがある。アルバムにはギンガ単独による作曲、ギンガと詩人アルジール・ブランキ(Aldir Blanc)という黄金コンビによる楽曲などに混じってギンガとイアン・ファキーニの共作曲も3曲収録され、師弟の音楽的なつながりの深さも感じさせる。
今作はこれまでに多数の名曲を世に送り出してきたギンガの中でも、あまり知られていない楽曲が多数取り上げられていることは特徴的だ。
ギンガとイアン・ファキーニの初めての共作曲(1)「Contradição」はイアン・ファキーニのギターと、多重録音されたナタリー・クレスマンのトロンボーンを伴奏にギンガが歌う。ギンガ特有の粘り気のあるメロディーの流れに、トロンボーンのハーモニーの動きがよく合う。ギンガの音楽はその独創性からカジュアルに聴ける類のものではないと思うが、この重厚なトロンボーンのレイヤーはギンガの音楽の哲学的側面をより強調するようだ。
(2)「Bolero de Satã」は1970年代のギンガの代表曲。ここではギンガ音楽の溺愛ぶりが感じられるイアン・ファキーニのギターと、ナタリー・クレスマンの即興を交えたトロンボーンが美しく深い余韻を残す。
(3)「Lavagem de Conceição」もギンガとイアン・ファキーニの共作曲。絶妙なサウダーヂを感じさせるアップテンポのギンガ調で、ナタリー・クレスマン、ギンガと親交の深い歌手アナ・パエス(Anna Paes)、そしてナタリーの母親サンディ・クレスマン(Sandy Cressman)のコーラスも印象的な良曲だ。
ギンガの代表曲のひとつ(7)「Por Trás de Brás de Pina」の演奏も素晴らしい。イアン・ファキーニのギターはまるでギンガの魂が乗り移ったかのようだ。
ギンガ本人は(8)「Par Constante」と(12)「Ellingtoniana」でギターを弾いている(イアン・ファキーニはこの2曲ではギターを弾いておらず、ギンガとナタリー・クレスマンのデュオ演奏となっている)。
前者はギンガのキャリアを代表する名曲で、トロンボーンによるメロディーはこの曲のほかのどの録音にも増して気怠さを演出している。
Natalie Cressman & Ian Faquini 経歴
ナタリー・クレスマンはカリフォルニア州サンフランシスコ生まれのトロンボーン奏者/歌手。
母親は歌手のサンディ・クレスマン(Sandy Cressman)、父親はサンタナ(Santana)のトロンボーン奏者ジェフ・クレスマン(Jeff Cressman)という、まさに両親のいいとこ取りのサラブレッドである。
エリス・レジーナ、ジョニ・ミッチェル、ポール・サイモン、ハービー・ハンコック、ウェザー・レポートなど、幅広いジャンルから影響を受けたと公言している。
イアン・ファキーニはブラジルの首都ブラジリア生まれ、8歳の時に米国カリフォルニアに移住したギタリスト/SSW。ブラジルを代表する鬼才作曲家/ギタリストのギンガ(Guinga)にも師事をし、多大な影響を受け続けている。
2016年には歌手パウラ・サントーロ(Paula Santoro)とのアルバム『Metal Na Madeira』を発表。丁寧に紡がれたアコースティック・サウンドはブラジル音楽ファンの間で高く評価された。
Natalie Cressman – trombone, vocals (3, 10)
Ian Faquini – guitar (except 8, 12), vocals (3)
Guinga – guitar (8, 12), vocals (1, 3, 10)
Anna Paes – vocals (3)
Sandy Cressman – vocals (3)