元e.s.tメンバーを中心としたセクステットによる厳かなライヴ盤
ジャズのひとつの歴史を作ったバンド、e.s.t.(Esbjörn Svensson Trio)が結成されたのは1993年。15年後の2008年6月に不慮の事故によってピアニストのエスビョルン・スヴェンソン(Esbjörn Svensson)は亡くなり、バンドは事実上の解散状態となったが、残されたドラマーのマグヌス・オストロム(Magnus Öström)とベーシストのダン・ベルグルンド(Dan Berglund)はその後もそれぞれの活動に勤しみながら、たびたびe.s.t.の活動を振り返るようなプロジェクトを発信してきた。
そして今回リリースされた新作『e.s.t. 30』にも、決して色褪せることのない名曲たちが収められた。
彼らはe.s.t.の結成30周年に際して北欧を代表するミュージシャンたちと新たなセクステットを組み、ケルンのフィルハーモニーとストックホルムのフィラデルフィア教会で2つの大きなコンサートを開催。その音源を一枚のアルバムとしてまとめてくれた。
これほど完璧なコンサート、音楽体験はなかなかないだろう。録音でもそれが伝わってくる素晴らしさだ。
(1)「From Gagarin’s Point of View」から続く名曲のオンパレードで、ミュージシャンたちは静寂の中でテーマを反復し、互いに反応し合いながら感傷的な即興演奏を繰り広げてゆき、最後には観客たちからいくつもの想いが乗った拍手が送られる。その様子は生々しく、幾分かのノスタルジーを含んだ複雑な感慨をもたらす。
マグヌス・オストロムは語る:
「私たちが経験する感情には、人生の深みに匹敵する多くのレイヤーがある。まず、家に帰ってきたような気分になる。次に悲しみ、感謝、幸福がある。そしてそれは非現実的、あるいは超現実的でさえあると同時に、とても自然に感じられるのです」
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「そして、この音楽の素晴らしさに驚かずにはいられない。エスビョルンの作曲と、当時私たちがトリオとして一緒に行ったアレンジは、時代を超越していると感じます」
「結局、確信するのは、この音楽は演奏されるべきであり、引き出しの中に眠っているべきではないということです」
ラストでは「Believe, Beleft, Below」が演奏される。これの原曲は『Seven Days of Falling』(2003年)に収められていたものだ。そのアルバムのシークレット・トラックとしてこれに歌詞をつけた「Love is Real」が収録されており、そこでは次のような歌詞が歌われていた:「もしまた会えたら、自分の気持ちを言うよ。愛は本物だと伝えるよ」。
今作のライヴ演奏は明らかに後者を意識したアレンジ/演奏で、マグヌス・リングレン(Magnus Lindgren)によるサックス、ヴェルネリ・ポーヨラ(Verneri Pohjola)のトランペット、ウルフ・ワケーニクス(Ulf Wakenius)のギター、ヨエル・リュサリデス(Joel Lyssarides)それぞれのソロには万感の想いが込められている。
彼らの演奏を、マグヌス・オストロムとダン・ベルグルンドは静かに見守り、支えている。
Magnus Öström – drums
Dan Berglund – double bass
Magnus Lindgren – tenor saxophone, flute
Joel Lyssarides – piano
Verneri Pohjola – trumpet
Ulf Wakenius – electric guitar