伊ハープ奏者マルチェラ・カルボーニによるピエラヌンツィ曲集
1970年代以降、イタリアのジャズを牽引してきた巨匠ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィ(Enrico Pieranunzi)がつくった美しい詩や絵画のような曲たちを、ハープ奏者のマルチェラ・カルボーニ(Marcella Carboni)が再解釈した作品『Miradas』。ゲストにはピエラヌンツィの最大の理解者であるクラリネット奏者ガブリエーレ・ミラバッシ(Gabriele Mirabassi)を迎え、目も眩むような耽美な世界が広がる。
アルバムはピエラヌンツィ屈指の美曲(1)「Les Amants」で幕を開ける。ベースにパオリーノ・デッラ・ポルタ(Paolino Dalla Porta)、ドラムスにステファノ・バニョーリ(Stefano Bagnoli)というイタリアン・ジャズの粋を集めたような編成で、ハープとクラリネットが抒情的なテーマを奏でた直後のパオリーノの思慮深いベースソロ、続いてマルチェラ・カルボーニのハープのソロ、転調してのミラバッシのクラリネットのソロはいずれも素晴らしく、冒頭からいきなり胸を抉られるような快演。
アルバムの表題曲である(2)「Miradas」はエンリコ・ピエラヌンツィがチャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)とのデュオで録音した『Special Encounter』(2003年)や、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)とジョーイ・バロン(Joey Baron)とのトリオ作『Ballads』(2004年)で繰り返し取り上げてきた曲だ。
ピエラヌンツィが敬愛する映画監督フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini, 1920 – 1993)に捧げた(4)「Fellini’s Waltz」、ハープとクラリネットのデュオで演奏される(7)「Canto Nascosto」などもピエラヌンツィらしい美的感覚に溢れる。
(10)「L’Heure Oblique」は随一の名盤『Seaward』(1994年)からの選曲。短調で畳み掛けるような転調はピエラヌンツィの美学の真骨頂だ。オリエンタルな旋律も織り交え、深く深く、海の底へとどこまでも沈み込んでゆく…。
アルバムの合間合間に挿入される4曲の小品「Sguardi」はこのカルテット全員が作曲者としてクレジットされている。イタリア的で内省的な側面だけでなく、ハードバップやモダンジャズからも多くを吸収し独自の音楽を創作してきたピエラヌンツィの影を強く感じさせるこれらの曲を聴くと、彼らの道はずっとこの偉大の作曲家の存在が照らし続けてきたのだと思わされる。
ラストはチャーリー・ヘイデン作曲の(13)「Silence」のごく僅かな断片が、エレクトロ・アコースティック・ハープの演奏によって提示される。
Marcella Carboni – electro-acoustic harp
Paolino Dalla Porta – contrabass
Stefano Bagnoli – drums
Special Guest :
Gabriele Mirabassi – clarinet