架空のスーパー、LHCC Martへようこそ。ソウルの未来を歩き続けるハイエイタス・カイヨーテのコンセプチュアルな試み『Love Heart Cheat Code』

R&Bというジャンルがビルボード誌で正式に音楽ジャンルとして使用されてから約80年。HipHop、Popsなど他ジャンルとクロスオーバーしながら進化を続けるR&Bおよびソウルは、これまでにネオ・ソウルやオルタナティブR&Bなどエポックメイキングな変化が起きるたび、ディアンジェロ(D’Angelo)やザ・ウィークエンド(The Weeknd)など素晴らしい才能を世に送り出してきた。
2010年頃に起きたR&Bの新たな波、フューチャー・ソウル。
そこで一躍世界に知られることになったのが、今回取り上げるハイエイタス・カイヨーテ(Hiatus Kaiyote)である。
2012年のデビューアルバム『Tawk Tomahawk』に収録されたQティップとの「Nakamarra」でグラミー賞最優秀R&Bパフォーマンス賞にノミネートされたのを皮切りに、今までに3作の作品で3度グラミー賞にノミネートされるなど、輝かしい軌跡を辿る彼らの最新作『Love Heart Cheat Code』に今回は焦点を当てていきたい。

ハイエイタス・カイヨーテを一躍有名にした楽曲「Nakamarra」。肩の力の抜けたネイ・パームの歌声とノスタルジックな映像が心地いい、彼らの代表曲だ。

ネイ・パームの圧倒的な存在感と、それを支えるバンドクオリティ

オーストラリアはメルボルン出身の4人組バンド、ハイエイタス・カイヨーテ。
オーストラリア出身のアーティストというと、古くはオリビア・ニュートン・ジョン(Olivia Newton-John)、カイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)、ナタリー・インブルーリア(Natalie Imbruglia)といったアイドル的ポップアーティストを多く輩出する地として有名だが、近年ではシーア(SIA)や、テーム・インパラ(Tame Impala)といったクリエイティビティあふれるアーティストが誕生しているのも特徴だ。

そうした流れに沿うように登場したハイエイタス・カイヨーテもまた非常に個性的でクリエイティビティに溢れたバンドであり、それを体現しているのがまさにボーカルであるネイ・パームの圧倒的かつ魅力的な歌唱にあると言える。時にスモーキーな歌声はエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)のようでもあり、時に無邪気な歌声はそのファッション性や立ち居振る舞いも含めシンディー・ローパー(Cyndi Lauper)のようでもある。
この低音と高音の幅の広さが楽曲の表情を豊かなものにし、個性的な作品へと昇華させているのは言うまでもない。

かといって、バンドがネイ・パームありきかと言われるとそうではないのが、このバンドの面白いところだ。
2ndアルバム『Choose Your Weapon』に収録された「Shaolin Monk Motherfunk」では、冒頭のジャジーでミニマルな演奏から後半の転調にいたるまで、終始バンドがリードし、ネイ・パームの歌声を引き出しているようにも思える。
こうしたジャズ的な即興アンサンブルがバンドとしての魅力を増幅させ、また飽きることのない常に新しい音楽を生み出し続ける原動力なのだろう。

2015年の『Choose Your Weapon』に収録された「Shaolin Monk Motherfunk」。ジャズ的アプローチやネイ・パームの高低織り交ぜた歌声など、ハイエイタス・カイヨーテの魅力が凝縮された一曲。

架空のスーパーマーケット”LHCC”に並ぶ『Love Heart Cheat Code』の個性的な楽曲たち。

前置きが長くなったが、いよいよ本題である最新作『Love Heart Cheat Code』について触れていきたい。

本作は前作に続き、フライング・ロータス(Flyng Lotus)が主宰するBrainfeederからのリリース。
イントロ的楽曲である(1)「Dreamboat」が象徴するように、今までの熱量あふれる即興的なアプローチというよりかは、考え抜かれたストーリーテリングに近い展開が特徴的な本作。
今までにない作品作りは、アートワークにも現れている。
アートワークは、スリランカ出身・トロント在住のマルチメディアアーティスト、ラジニ・ペレラとの協働によるもの。各楽曲にはそこからインスパイアされたビジュアルシンボルがデザインされており、いわゆるMVが本作の楽曲では、現在のところ存在していない。
そして、その代わりに統一テーマとして映像化されているのは、本作のタイトルを表した「LHCC Mart」と言われる架空のスーパマーケットだ。
各楽曲のシンボルがマーチャンダイジングされたものが、この架空のスーパーで販売されているというコンセプチュアルな内容は、彼らの次のステージを予感させる新たな試みといえる。

LHCC Martのプロモーション映像という立て付けの、本作のトレーラー。後ろで流れているのは、本作の表題曲「Love Hert Cheat Code」。スーパーマーケットのBGM風にアレンジされているのも面白い。

実際に本作を再生をしてみれば、流麗なトラックとリフレインされる歌詞が印象的な(2)「Telescope」(9)「Love Heart Cheat Code」や(6)「Dimitri」といったHipHop的なビートから、ジェファーソン・エアプレイン(Jefferson Airplane)の楽曲カバーである(10)「White Rabbit」、ライブで人気の楽曲(12)「Cinnamon Temple」といったアグレッシブなロックナンバーまで、文字通りスーパーマーケットに立ち並んでいる商品かのような、個性的な楽曲たちの姿を目にすることができるはずだ。

本作のみならずハイエイタス・カイヨーテ作品では異色のロックナンバー「White Rabbit」また、本曲のウサギのように、各楽曲にビジュアルシンボルが設定されているのも本作の特徴だ。

フューチャー・ソウルを掲げてデビューしてから10年の歳月を経てもなお、新たな試みを続けるハイエイタス・カイヨーテ。
彼らの次なる進化はどのようなものになるのだろうか。
10月に控える来日公演も含め、期待は膨らむばかりだ。

プロフィール

紅1点で強烈な個性を放つギター・ヴォーカルのネイ・パーム、ポール・ベンダー(Bs)、サイモン・マーヴィン(Key)、ぺリン・モス(Ds)の4人からなるハイエイタス・カイヨーテは2011年メルボルンで結成。
2013年夏、米ソニーミュージック傘下のマスターワークス内にあるサラーム・レミ主宰フライング・ブッダ(Flying Buddha)レーベルからデビュー。
アルバムに収録されたQ-TIP共演のシングル「NAKAMARRA」が第56回グラミー賞ベストR&Bパフォーマンス部門にノミネートされ、スナーキー・パピーが受賞するも、この部門でノミネートされた初のオーストラリアのバンドとなった。
2015年5月、セカンド・アルバム『チューズ・ユア・ウェポン』を世界リリース。
スケール・アップしたグルーヴ感と流動するエネルギーにみちたハイエイタス・サウンドは世界中のファンを魅了し、iTunes R&B/Soulアルバム・チャートにおいてアメリカ、オーストラリア、カンボジア、カナダ、ドイツ、イスラエルの6カ国で1位を記録。
セカンド・アルバムを引っ提げての5月に行われた全米ツアーでは、各地でソールドアウト公演が続出した。5月12日のミネアポリス公演にはプリンスも駆け付け、絶賛コメントを発表している。6月以降は大陸を移動してパリ、モスクワ、トルコ、ベルギー、ウィーン、ニース、フィンランド各地でのライヴに加え、グラストンベリー、モントルー・ジャズ・フェス、ノース・シー・ジャズ・フェス等、歴史あるヨーロッパ名物フェスへの参戦を果たす。変幻自在のジャム・バンドとしての本領を発揮したハイエイタス・カイヨーテは、世界中の音楽ファンをうならせ、次世代を切りひらく唯一無二の存在として、かつてない注目を集めるバンドへと大躍進を遂げた。
ソニー・ミュージックオフィシャルサイトより抜粋

関連記事


Follow Música Terra