ブラジル音楽の粋が浮き立つ。ドイツのSSWドータ・ケール、深く美しい幸福感を醸す新作

Dota Kehr & Danilo Guilherme - De Repente Fortaleza

ドータ・ケール&ダニーロ・ギリェルミ、20年ぶり新作!

ドイツ・ベルリンを拠点とする女性SSWドータ・ケール(Dota Kehr)と、ブラジル北東部のセアラー州フォルタレザ出身の男性SSWダニーロ・ギリェルミ(Danilo Guilherme)による双頭名義(通称 Dan & Dota)のアルバム『De Repente Fortaleza』がリリースされた。ブラジル北東部特有の空気を纏った軽妙で美しいロック/トロピカリアを継承するサイケロックで、主にポルトガル語で歌われる二人のヴォーカルが織りなす世界観が素晴らしいアルバムだ。

ロー・ボルジェス作による“街角クラブ”の名曲カヴァー(9)「Um girassol da cor do seu cabelo」と、今作で共演したシコ・セーザル作の(12)「Miaêro」以外は二人のオリジナル。ドータとダニーロは2003年にドータがブラジルを訪れた時に出会い、共同名義でアルバム『Mittelinselurlaub – Perto da Estrada』をつくっているから、今作はそれから実に20年ぶりの再会を祝う作品でもある。

アルバムには深みのある幸福感が漂う。たとえば(2)「Tudo estava lá」は“すべてがそこにはあった”という意味のタイトルだが、アコースティック・ギターや打楽器を中心とした厳かなアレンジの上で歌われる二人のヴォーカル(基本的にはオクターヴ・ユニゾン)が何とも言えず心地よく響く。(3)「Manga」(ポルトガル語でマンガとは、漫画ではなく果物のマンゴーのこと)も同様で、必要最低限の楽器とアレンジで魔法のような美しい瞬間をもたらしている。

(3)「Manga」

(5)「Uma nova história」にゲスト参加し、ドータ・ケールとともに歌うのはブラジル北東部ロックの伝説的存在、シコ・セーザル(Chico César)だ。ドータは彼女の2008年作『Schall und Schatten』で初めてシコ・セーザルと共演しており、このとき以来の友情が再び結実した。

シコ・セーザルをフィーチュアした(5)「Uma nova história」

そして個人的には、やはり(9)「Um girassol da cor do seu cabelo」の収録が嬉しい。ブラジル音楽を代表する大胆で革新的な永遠の名盤である『Clube da Esquina』(1972年)に収録されたこの曲は、ここではヴォーカリストのアイラ・ラモス(Ayla Lemos)がゲスト参加しドータとともに見事なコーラスで歌われている。ナイロン弦ギター、エレクトリック・ギターの伴奏を軸に洗練されたサウンドは、初演から半世紀を経た今でも歌い継がれる名曲をより一層魅力的にしている。

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