多文化共生の象徴的オリエンタル・ポップ、Kit Sebastian 世界へ羽ばたく3rdアルバム

Kit Sebastian - New Internationale

オリエンタル・ポップの新星、Kit Sebastian 新作

音楽は自由なようでいて、意外と保守的だ。世の中のほとんどの音楽は十二平均律に縛られ、多くのヒット曲は使い古された退屈なコード進行の使い回しだ。そういった楽曲は音楽に多くのことを求めない人々を安心させることはできるかもしれないが、アートと呼ぶには少しばかり知的探究心に欠けている。

しかし、そんな従来の音楽の“常識”や“法則”を打ち破りながらも、マニアたちの溜飲を下げるだけでなく、市井の多くの人々の間でインフルエンスしそうな興味深いグループが現れた。
キット・セバスチャン(Kit Sebastian)の奇妙な音楽には従来なかった新しさがあり、同時に時代を超えたノスタルジアがあり、そしてポップスの純粋な至福と安心感もある。このロンドンを拠点とする男女ユニットは2019年にアルバム『Mantra Moderne』でデビューし、2021年に『Melodi』で世界中を虜にし、そして2024年に今回紹介する最新作『New Internationale』をリリースした。

Kit Sebastian 3rdアルバム『New Internationale』

キット・セバスチャンはイギリスとフランスで育ったマルチ奏者/作曲家のキット・マーティン(Kit Martin)と、イスタンブールで生まれローマで映画を学んだシンガー/作詞家のメルヴェ・エルデム(Merve Erdem)から成る二人組。

ロンドンの多文化共生の中で結実させた彼らの音楽にはアナトリアのロック、UKのニューウェイヴ、60〜70年代のフレンチポップ、ブラジルのトロピカリア、コンテンポラリー・ジャズなどが複雑かつ自然な比率で混合している。旋律には微分音を含む中東音楽特有の音階がふんだんに用いられ、ドラムスやベース、ギター、キーボードといった“ありふれた”楽器に混じって民族楽器も多用され、彼らのアイデンティティーを示している。かといって決してとっつきにくいものではなく、リズムは親しみやすく、ベースラインやコードも基本的に西洋音楽の理論を踏襲しており、それがメロディーの微分音の“違和感”を際立たせ、興味を惹きつける仕掛けとなっているのだ。

(1)「Faust」

(6)「Metropolis」はアゼルバイジャンのヴァギフ・ムスタファザデ(Vagif Mustafazadeh)やラフィク・ババーエフ(Rafiq Babayev)といった“ジャズ・ムガーム”の音楽家から影響を受けているが、そこにさらに西洋的なファンクやサイケロックを加え独特のカオスを作り上げている。

(6)「Metropolis」

今作はフライング・ロータス(Flying Lotus)主宰のレーベル、Brainfeeder からの彼らにとっての初リリースだ。キャッチーだが、どこか引っ掛かる音楽はリスナーの興味の幅を広げてくれることだろう。
レーベルの強力なバックアップのもと、彼らのさらなる飛躍を期待したい。

(7)「Bul Bul Bul」
Kit Sebastian - New Internationale
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