マベ・フラッティ、注目の前衛ジャズ新譜『Sentir Que No Sabes』
グアテマラ出身でメキシコシティを拠点に活動するチェロ奏者/歌手/作曲家のマベ・フラッティ(Mabe Fratti)の4枚目となるアルバム『Sentir Que No Sabes』。チェロとヴォーカルをサウンドの軸に据えた実験的な作風で現代エクスペリメンタル・ジャズの旗手に名乗りをあげた彼女の最新作は、これまで以上にロックやポップスの輪郭を浮かび上がらせつつも、アヴァンギャルドな音響空間に留まった魅力的な作品だ。
ポップ・ソングというには攻めすぎているが、通常の感覚ではとっつきにくさを伴う前衛音楽と呼ぶにはポップ、というのがこのアルバムの特長かもしれない。音響の面では実験的だが、フレーズや和音は示されているし、しっかりとした歌のメロディーもある。断片的だが、それらが有機的に絡み合い、ひとつの世界観を作り上げている。これは彼女の優しさであり、反抗心であり、美しい音楽への探究心を主な成分とする複雑なレシピの再現なのだ。
チェロに関しては、マベ・フラッティはこの楽器ででき得る様々な表現を試みている。アルコやピッツィカートを様々なエフェクターと組み合わせ、遊びながら自身のサウンドの探求を続ける。彼女は「自分の音楽は本当に良い鏡で自分を見つめ、肌の毛穴すべてを見つめるようなものだ」と言う。ドラムスやギターの不穏な音とともに、生身の人間の感情のすべてを音楽にぶつけている。
Mabe Fratti 略歴
マベ・フラッティは1992年グアテマラ生まれ。キリスト教プロテスタント教会のペンテコステ派1の家庭で育ち、幼少期からクラシックのチェロの教育を受け、両親からはキリスト教音楽かクラシック音楽しか聴くことを許されなかった(彼女がファイル共有ソフトであるLimeWireを発見するまでは)。
10代の頃からオリジナルの音楽制作を始めるようになり、教会を離れてからは多くの音楽に触れられるようになった。レゲエ、ブルース、ファンクなどに影響を受け、自身の演奏スタイルを広げていった。
2015年にゲーテ・インスティテュートのレジデンシーで隣国メキシコに移住。メキシコではリベルタッド・フィゲロア(Libertad Figueroa)、グドルン・グット(Gudrun Gut)、ジュリアン・ボネキ(Julian Bonequi)といった著名なアーティストと共演し、メキシコシティの即興音楽シーンに関わるようになった。2019年に最初のアルバム『Pies Sobre La Tierra』でデビューし、2021年には作曲家のクレア・ラウジー(Claire Rousay)や実験バンドのTajakとコラボレーションしたアルバム『Será Que Ahora Podremos Entendernos 』をリリースし、高い評価を得た。
- ペンテコステ派(Pentecostalism)…キリスト教プロテスタント教会の一派。聖霊による洗礼を受けることを重視し、聖霊のバプテスマとそれに伴う証としての異言を強調する。 ↩︎
Mabe Fratti – cello, vocals, synths
I. La Católica – guitar, piano, synths
Jacob Wick – trumpet
Gibrán Andrade – drums
Estrella Del Sol – whistle