トーゴ出身ドゴ・デュ・トーゴによるハイセンスなアフロビート作
トーゴ出身で米国ワシントンD.C.に20年間住み、現在はトーゴの首都ロメとワシントンD.C.を行き来するシンガーソングライター/ギタリストのドゴ・デュ・トーゴ(Dogo Du Togo)が率いるバンド、アラガア・ビート・バンド(The Alagaa Beat Band)のデビュー・アルバム『Avoudé』。彼が“アラガア・ビート”と呼ぶサウンドは、トーゴの伝統的なリズムや旋律にロックやファンクの要素が絡み、エネルギーに溢れる独特の創造的な音楽を作り上げている。
“アラガア”はトーゴで話されている膨大な言語のひとつであるエウェ語で「トランス」を意味するという。アルバムは全編、強烈なビートや技巧的なベース、サイケデリックなギターで彩られ、とりわけ中毒的なペンタトニック・スケール1が印象的だ。バンドはドゴ・デュ・トーゴのロメ在住時代の古い友人たたちによって構成されており、リード・ギタリストのオヤ・ヤオ(Oya Yao)は最初に彼にギターを教えてくれた人物なのだという。
移民、社会正義、希望、そしてトーゴの日常生活といったテーマを歌う(1)「Avoudé」にはロックやファンク、レゲエ、アフリカ音楽など多くの要素が複雑に配合されており、驚かされる。歌詞では“人生は楽ではない。戦わなくてはいけない”というテーマが強調されている。
つづく(2)「Zonva」はDogo Du Togo名義の前作『Dogo Du Togo』(2022年)に収録されていた曲のセルフカヴァーで、新たなアレンジが加えられている(同様に(4)「Adzé Adzé」や(7)「Africa」も前作収録曲)。西洋音楽に影響されたコード進行やエモーショナルなメロディは非常にキャッチーで印象的だが、4拍子と6拍子が混在したリズムはやはりアフリカ的だ。
(3)「Enouwo Lagnon」では、どんなに困難な状況に陥ったとしても、希望や祈り、苦闘を通して物事は良くなるのだというメッセージを伝えている。ここではニューオーリンズを拠点に活動する鍵盤奏者、ダニエル・マイネッケ(Daniel Meinecke)のシンセサイザーのソロも印象的だ。
12/8拍子のアグバザ2のリズムで奏でられる(4)「Adzé Adzé」では、アフリカの真の独立──書類上の独立ではなく──について想いを歌い上げる。歌詞はあからさまに政治的で、アフリカ諸国における独立の英雄であるパトリス・ルムンバ3やトマ・サンカラ4の殺害といった歴史的な悲劇を二度と繰り返さないことが重要命題だと説き、アフリカの若者に対し、明るい未来を築くために立ち上がること、そして自国が西側諸国の政府の言いなりになることを拒否することを促している。
(6)「Xenophobia」では、トーゴ文化における見知らぬ人や客人に対する歓迎とおもてなしの大切さを反映している。曲調は楽しげで、ラテンやブラジルの音楽にも通じるパーカッションが気分を高揚させてくれる。
Dogo Du Togo 略歴
ドゴ・デュ・トーゴ(本名:Serge Massama Dogo)は1972年にトーゴの首都ロメで生まれた。10代の彼がギターに興味を持ち始めた頃、家族に音楽に理解のある者はおらず、彼の父親はギターを弾くことを望んでいなかった。ドゴは友人にコードを弾くことを教わり、地元のいくつかのバンドに参加し、大学ではバンドのリーダーとなった。
2000年頃に渡米。レゲエバンドなどでの活動ののち、トーゴの音楽にロックやファンク、ジャズを混ぜたミクスチャー・バンド、エリケ(Elikeh)を結成。警備員として働きながら、バンドでアルバムを3枚とEPを1枚リリースした。
ドゴ・デュ・トーゴは自分のルーツに立ち返り、トーゴの文化に近い音楽を演奏したいと考えていた。ロメにいる友達たちと何かを始めようと思い立ち、ロメでバンドで録音し2022年にDogo Du Togo名義でセルフタイトルのアルバム『Dogo Du Togo』をリリース。
Serge Massama Dogo a.k.a. Dogo du Togo – lead vocal, guitar
Oya Yao – lead guitar, backing vocal
Tsikwol – bass, backing vocal
Amèvi Agakpe – drums, backing vocal
Ogrini Baladjé – percussions, backing vocal
Aklama – trumpet, backing vocal
Eni’s Barbara – trombone, backing vocal
Violin ( Avoudé, Zonva, Adzé Adzé) – Melina – violin (1, 2, 4)
Olufade Gbadebo – synthesizer (6)
Daniel Meinecke – synthesizer (3, 4, 5, 8)
- ペンタトニック・スケール…5音で構成された各種の音階のこと。ブルースやロックなどではマイナー・ペンタトニック・スケールが多用されるが、今作では所謂“ヨナ抜き”として日本の演歌などでも多用されていることで知られるメジャー・ペンタトニック・スケールが多用されている。 ↩︎
- アグバザ(agbadza)…ガーナやトーゴに住むエウェ族の民族音楽および踊り。 ↩︎
- パトリス・ルムンバ(Patrice Lumumba, 1925 – 1961)…コンゴ共和国の政治家(初代首相)、民族運動家。ベルギー領となっていたコンゴ国民運動の指導者として部族間の紛争を防止し、コンゴ国民の一致団結とアフリカ諸国の独立運動に尽力し1960年のコンゴ共和国独立に際して総選挙で首相に選出されたが、コンゴに駐留していたベルギー軍の支援を受けた反ルムンバ派によるクーデターによって1961年末に殺害された。 ↩︎
- トマ・サンカラ(Thomas Sankara, 1949 – 1987)…オートボルタ(現ブルキナファソ)の第5代大統領。大統領就任後、国名を「正直者の国」を意味するブルキナファソへと改め、植民地時代の負の遺産を払拭しようとした。また、汚職の撲滅、女性の地位向上、教育の普及など、国民生活の質の向上に尽力し、特に教育に関しては識字率を飛躍的に向上させ、国民の教育水準を高めることに大きく貢献。しかし、1987年にその後27年間にわたってブルキナファソを独裁することになる側近のブレーズ・コンパオレ(Blaise Compaoré)によって企まれたクーデターによって暗殺された。 ↩︎