Laíz & The New Love Experience 驚くべきデビュー作
1999年にブラジル・サンパウロに生まれ、新興宗教の信者としての実家での生活に適応できず14歳でアメリカに移住、その後2018年にドイツに移住した女性ラッパー、ライス&ザ・ニュー・ラヴ・エクスペリエンス(Laíz & The New Love Experience)のデビュー作『Ela Partiu』は、新人とは思えないクオリティに驚かされる作品だ。彼女の確立された個性から放たれるラップ、20名から成るバックバンド”The New Love Experience”によるジャズ、ファンク、トロピカリア、アフロビートなどを境界なく融合した高度なアンサンブルは、この特異な人生を歩んできた新世代のアーティストの登場を盛大に祝福する。
エホバの証人を信仰する家庭に生まれ育ったライスの幼少期は、ステレオタイプなブラジル人のそれとはおおよそ相容れないものだったようだ。音楽は厳しく制限されており、両親が認めたスピリチュアルな、または不敬虔な一線を越えない音楽だけが許されており、家庭の空間にはサンバもMPBもセルタネージョもなく、フィル・コリンズとバッハがすべてだった。
彼女がヒップホップに初めて出会った場所は、14歳のときに訪れたベルリンだった。ラッパーたちのウィットに富んだ鋭いリリックの表現は、すぐに彼女の幼少期の祖国ブラジルでの記憶を呼び覚ました。ここから彼女の中での音楽の革命が始まり、マルセロ・デードイス(Marcelo D2)やクリオーロ(Criolo)といったアーティストたちの存在に目を向けさせた。彼女はまた、トン・ゼー(Tom Zé)の『Estudando do Samba』といったトロピカリアの偉大な遺産や、ブラジリアン・ソウルの伝説、チン・マイア(Tim Maia)といった祖国の音楽文化を発掘した。こうして点と点がつながり、アイデンティティを再発見した彼女は、その体験を自身の音楽表現へと取り込んでいった。チン・マイアに関しては、1970年代にカルト宗教団体クルトゥーラ・ハショナウ(Cultura Racional)への入信、そして脱退という彼の経歴に、ライスが自身の境遇を重ね合わせ共感したことは想像に難くない。事実、アルバムに題された「Ela Partiu」(彼女は去った)は、チン・マイアの名曲からの借用だ。
アルバムに参加する仲間たちの多くは、ルイスと同じように南方からドイツへと渡ってきたアーティストたち。とりわけスーダン出身のラッパー、ゼヨ・マン(Zeyo Mann)、ガーナ出身でジェンバ・グルーヴの共同設立者である打楽器奏者/シンガーのキング・オウスー(King Owusu)、アフリカ系フランス人ナネ・カーレ(Nane Kahle)らがフィーチュアされている。彼らがもたらす影響も相互作用し、やはり全体としてこの作品は文化的ディアスポラたちの鬱屈とした行き場のないエネルギーが爆発寸前の様相を見せている。
プロデュースはドイツの気鋭マルチ奏者/プロデューサーであるパチャクティ(Pachakuti)とヤング・ヴィシュヌゥ(Young.Vishnu)が勤めている。