”埃”高きリベラル派ミクスチャー、ズーフリ・マラカス 魅力的な4th
フランスの社会派ミクスチャーバンド、ズーフリ・マラカス(Zoufris Maracas)の4枚目のスタジオ・アルバム『La course folle』。アルバムはコロンビアとフランスで録音され、アフロキューバン、カーボベルデ、マヌーシュジャズなど多様な音楽的要素を取り込み、日常の葛藤や自由への渇望をユーモラスかつ鋭い表現で歌っている。
2025年初頭にデビューEP『Fantastik』をリリースしたルイーザ(Luiza)との共演(1)「Si c’était pire」では、“崩壊しつつある”世界の状況に翻弄される労働者や小市民の立場を、カーボベルデのモルナやアフロ・キューバンの影響を受けた軽快なビートに乗せ、皮肉を込めて歌う。
自由への強い願いをシンプルに歌い上げるマヌーシュ・ジャズ風の(2)「Liberta」、現代生活の狂騒をテーマに、サンバとパーカッションにラテンの上物という特徴的なミクスチャーの雰囲気を持つタイトル曲(3)「La course folle」といった具合に、アルバム前半から彼らの魅力が際立つ。
それでも、どこか爆発寸前のエネルギーに満ちていた前作『Bleu de Lune』(2020年)と比較すると落ち着いた印象を受けるかもしれない。実際、(8)「Démocratie」では民主主義の矛盾を、(10)「La retraite」で労働と老後の現実を皮肉りつつ、ラストの(13)「C’est beau la vie」では人生の美しさを肯定するといったようにある種の諦観のようなものも感じられる。
いずれにせよ、ある種の埃臭さに言語化できない美しさを見出す人々にとって、このアルバムは魅力的に響くだろう。
Zoufris Maracas 略歴
ズーフリ・マラカスは地中海に面した南仏の都市セット(Sète)に生まれ育った幼馴染の二人──ヴィンセント・サンチェス(Vincent Sanchez, 通称Vin’s)と、ヴィンセント・アラール(Vincent Allard, 通称Micho)によって結成されたバンド。ヴィンズとミショは大学生活を中断して西アフリカを旅し、人道活動や移動映画館の支援を行った経験を持っている。
2007年。パリでグリーンピースで働きながら路上で演奏を行なっていたヴィンズの元に、しばらくメキシコに滞在していたミショが加わり、生活費を稼ぐためにパリの地下鉄でデュオとして演奏を始め(彼らはしばしば罰金を払わなければならなかった)、それが音楽プロデューサーの目に留まり徐々にグループを拡大していった。
グループ名「Zoufris」は、1950年代にフランスで働いていたアルジェリア人労働者を指す言葉に由来しており、「Maracas」は彼らの音楽にラテンやトロピカルなリズムが含まれていることを象徴しているという。
2011年にシングル「Et ta mère」でデビューし、2012年のアルバム『Prison Dorée』で注目を集めた。移民や環境問題をテーマに、ユーモアかつ社会風刺的な音楽を展開。2015年の『Chienne de Vie』や2020年の『Bleu de Lune』でさらに進化し、ライヴでもエネルギッシュなパフォーマンスで観客を魅了。マヌ・チャオ(Manu Chao)らに影響を受けたスタイルで、フランス内外で人気を博している。