躍動するJ.S.バッハ新解釈。『Afro Bach』
西洋クラシックの作曲家の名曲をアフロ・カリビアン音楽で再解釈するプロジェクトが人気の米国のピアニスト/作編曲家ヨアキム・ホースレイ(Joachim Horsley)が最新作『Afro Bach』をリリースした。その名のとおり、“音楽の父”ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685 – 1750)の名曲を独創的にカヴァーしており、そのアイディアに驚き(そしてたくさんの楽しさ)を提供してくれるアルバムとなっている。
アルバムではそれぞれの曲でバッハの曲をアレンジするだけでなく、曲ごとに個性的なミュージシャンを世界各国から招きフィーチュアしている。
(2)「Afrobeats Prelude and Amapiano Fugue」では「前奏曲 – 3声のフーガ ハ短調(BWV 847)」をアフロビートとアマピアノで再解釈。セネガルの打楽器奏者マガッテ・フォール(Magatte Fall)のトーキングドラムも際立つ。
ブラスバンドによる活気のあるアンサンブルが爽快なブーガルー(3)「Bach Boogaloo」では、サウスフロリダ出身のドラマー/パーカッショニストのマーフィ・オーキャンプ(Murphy Aucamp)をフィーチュア。
コロンビアの伝統音楽であるクンビア風の解釈で演奏される(4)「Bach Cumbia」ではコロンビアの女性デュオのオリト・カントーラ・イ・ヘン・デル・タンボ(Orito cantora y Jenn del tambó)をフィーチュア。平均律クラヴィーア「前奏曲 – 4声のフーガ ト短調」(BWV 861)を、その高度な対位法を準えつつラテンアメリカの高揚するリズムを導入し活き活きと蘇らせる。
(5)「Tropical Prelude」ではフランスのクラシックのチェリスト、セバスチャン・ユルタウ(Sebastien Hurtaud)が深みのあるチェロを聴かせてくれる。
ラストの(7)「Bach’s Cuban Concerto for Piano and Tres」ではキューバ・ハバナのトレス奏者オリビア・ソレール(Olivia Soler)と、室内楽オーケストラであるボストン・パブリック・カルテット・アンド・フレンズ(Boston Public Quartet and Friends)をフィーチュア。精緻で美しいアレンジでバッハの「ヴァイオリン協奏曲 ニ短調」(BWV 1052)をユニークにカヴァーし、この印象深いアルバムを締めくくる。
Joachim Horsley プロフィール
ヨアキム・ホースレイは幼少期よりビートルズ、スティーヴィー・ワンダー、チャック・ベリー、バッハ、ワーグナー、ショパンなどを平等に愛する一家で育った。ティーンエイジャーの頃から作曲を始め、ジャズの巨匠デイヴ・ブルーベックの息子であるクリス・ブルーベックにジャズピアノを師事している。
ポール・サイモンの『Graceland』(1986年)やキューバへの旅行が彼の音楽観に大きな影響を与え、クラシックやジャズと、ワールドミュージックの融合を追求するきっかけになった。
映像音楽の仕事が多くHBO Max シリーズの『The Gordita Chronicles』、ディズニー チャンネルの『Big City Greens』、ワーナーブラザーズの映画『Batman: Soul of the Dragon』などの音楽を担当。
2016年に公開した「Beethoven in Havana」(ベートーヴェンの交響曲第7番をキューバ風にアレンジした動画)はインターネットで広く注目を集め、この成功を機にクラシック音楽をラテンやアフリカの音楽文化で再解釈するプロジェクト「Via Havana」を開始。今作『Afro Bach』は2019年の『Via Havana』、2022年の『Caribbean Nocturnes』に続くトリロジーの最終章だ。