時代を超える普遍的な傑作。レイヴェイ、待望の3rdアルバム『A Matter of Time』

Laufey - A Matter of Time

より個性と世界観を確立したレイヴェイ待望の3rdアルバム

2ndアルバムである前作『Bewitched』(2023年)がグラミー賞を受賞し、まだわずか5年程度の活動期間ながら一気に世界的なスタートなったレイヴェイ(Laufey)が、待望の新譜『A Matter of Time』をリリースした。現代のポップカルチャーと、レトロでノスタルジックな音楽を高いレベルで融合した唯一無二の存在であるレイヴェイの魅力と存在感を一段と際立たせる作品として広く注目を集め、おそらくは想像以上の再生回数の数字をもって彼女のスター性をあらためて証明するだろう。

東京でMVが撮影され、先行配信された曲(2)「Lover Girl」を聴いたときは、正直今作にはあまり期待はできないかなと感じた。これまでの彼女のヒット曲の焼き直しのように思えたからだ。古いスタイルで新しい曲を書くという彼女の音楽性は、デビュー当初はTikTokなどのSNSを通じて発信される彼女のキラキラとした個性とも相まって当時はとても新鮮に映ったものだが、同じことをずっと繰り返していては当然飽きられる。彼女もそのパターンに陥ってしまったのかと思っていた。

東京で撮影されたMVが話題となった(2)「Lover Girl」

だが、作品全体を通して聴いてみて当初の印象は覆った。
彼女自身が「より自信を持って、心のままに音楽を作った」と語っている通り、これまでの作品でも見せてきたミュージカル、ジャズ、ポップ、ボサノヴァ、クラシック、カントリーといった要素をさらに大胆に幅広く融合させた今作の世界観は、レイヴェイというアーティスト独自の音楽性を完全に確立したと言っても過言ではなく、これだけ多彩なジャンルからの影響を受けながらも一聴して彼女だとわかるほど個性を強めたように感じられた。

すでに彼女をジャズやポスト・ボサノヴァというカテゴリに閉じ込めることは難しい。先述の(2)「Lover Girl」のようにアルバムの一部にはこれまでの彼女の代表曲と変わり映えのしないものもあるが、それは単なるこれまでのファンへのサービスだったのかもしれない。全体を通して聴く本作は、彼女の“素”を晒け出しつつ、新しいフェーズへと進もうとする野心に近い意欲を、とりわけアレンジやアンサンブルの力によって強調している。

ジャズ新世代の新たなスター

レイヴェイの音楽がジャズと呼べるかどうかの議論は置いておいて、音楽業界の中のジャズ界隈は新しいスターの誕生を常に期待していた。
そして商業的な価値観に照らし合わせると、近年で本当のそれはノラ・ジョーンズ(Norah Jones)以降、誰も現れていなかった──さらに付け加えておくと、近年と言ってもノラ・ジョーンズの『Come Away With Me』(2002年)からもう四半世紀が経とうとしているという悲惨な状況だった。

レイヴェイの音楽は、伝統的なジャズに縛られず、ポップスやボサノヴァ、クラシックの要素を融合させている。さらに彼女自身が頻繁にアップするSNSの投稿を通じて瞬く間に拡散され、これがジャズを聴き慣れていない若い世代、特にZ世代にとって、非常にアクセスしやすい音楽となっていることは間違いない。グラミー賞という最高の箔も含め、彼女の成功は、一般的に“敷居が高い”と思われがちなジャズの専門的な知識がなくても楽しめる「入り口」を提供している点が大きいといえる。ジャズというジャンルそのものが若い世代との接点を模索している中で、彼女のような自身の未熟な部分も含めて晒け出し、広く共感を呼ぶアーティストの登場はまさに待ち望まれていたものだったのだろう──20年以上擦られ続けたノラ・ジョーンズは、さすがにもう限界なのだから。

アルバムのラストを飾る(14)「Sabotage」には大胆な意外性が。彼女の物語はまだまだ続く予感を残す。

レイヴェイが自身で演奏するチェロやピアノ、ギターに加え、これまでにも共演したアイスランド交響楽団や、フルート、ヴィオラ、トランペット、アコーディオンなど多様な楽器が登場。特に(8)「Cuckoo Ballet」や(14)「Sabotage」では、感情を強調するような不協和音や劇的なアレンジも際立っている。

プロデューサーはこれまでの作品同様、長年のコラボレーターであるスペンサー・スチュワート(Spencer Stewart)。双子の妹ジュニア・リン(Junia Lín)が数曲でヴァイオリンで参加。さらにレイヴェイと同世代の人気SSWクレイロ(Clairo)がバックグラウンド・ヴォーカリストとして(12)「Mr. Eclectic」に参加している。

(13)「Clean Air」はカントリーからの影響を取り入れている

Laufey プロフィール

レイヴェイ(Laufey, 本名:Laufey Lín Jónsdóttir, 中国語名:林冰)は1999年アイスランド生まれ。
母方の祖父リン・ヤオジ(Lin Yao Ji, 林耀基, 1937 – 2009)はクラシックの著名なヴァイオリン奏者で、北京に本部を置く中国随一の音楽学校である中央音楽学院の教授を務めていた。祖母の胡适熙もピアニスト、母親もヴァイオリン奏者で、レイヴェイ自身も幼少期からクラシックの音楽教育を受けている。
アイスランド人の父親はジャズの愛好家で、彼が好んでいたエラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)やビリー・ホリデイ(Billie Holiday)といった女性ジャズ・ヴォーカリストのレコードもレイヴェイの音楽性に大きな影響を与えた。

15歳でソリストとしてアイスランド交響楽団(Iceland Symphony Orchestra)と共演。
2014シーズンのÍsland Got Talent(America’s Got Talent のアイスランド版)に参加し、ファイナリストとして終了。翌年、彼女はThe Voice Icelandにも出場し、準決勝まで進んでいる。

2020年にデビューシングル『Street by Street』をリリースし、 Icelandic Radioでチャート1位を獲得。2021年4月には最初のEP『Typical of Me』をリリース。その後2022年8月にファーストアルバム『Everything I Know About Love』を、2023年3月にはアイスランド交響楽団と共演したライヴ盤『A Night At The Symphony』をリリースした。

Laufey – lead vocals (all tracks), cello (tracks 1, 2, 3, 4, 7, 8, 10, 11, 12, 14), piano (5), electric guitar (6)
Spencer Stewart – double bass (1, 8), piano (2, 7, 12, 14), acoustic guitar (3, 5, 10), electric bass guitar (6), drums (13), guitars (13)
Junia Lin – violin (1, 2, 5, 7, 10)
Ryan Shaw – drums (1)
Ted Case – piano (1)
Katisse Buckingham – flute (2)
Aaron Dessner – acoustic guitar (4, 11); drums, piano (11)
JT Bates – drums (4)
Jeremy Ylvisaker – electric guitar (4)
Mark Levang – accordion (5, 6)
Jordan Rose – drums (6, 7)
Robert Schaer – trumpet (8, 14)
Anthony Parnther – bassoon (8)
Jonathan Sacdalan – clarinet (8)
Sara Andon – flute (8)
Adam Wolf – French horn (8)
Marcia Dickstein – harp (8)
Claire Brazeau – oboe (8)
Dillon Macintyre – trombone (8)
Michelle Shin – violin (8)
Iain Farrington – arrangement (9)
Bryndís Þórsdóttir – bassoon (9)
Louisa Slosar – bassoon (9)
Hjörtur Páll Eggertsson – cello (9)
Hrafnkell Orri Egilsson – cello (9)
Júlía Mogensen – cello (9)
Margrét Árnadóttir – cello (9)
Sigurgeir Agnarsson – cello (9)
Urh Mrak – cello (9)
Baldvin Ingvar Tryggvason – clarinet (9)
Grímur Helgason – clarinet (9)
Jacek Karwan – double bass (9)
Richard Korn – double bass (9)
T. C. Fitzgerald – double bass (9)
Þórir Jóhannsson – double bass (9)
Anna Winter – flute (9)
Áshildur Haraldsdóttir – flute (9)
Charlotte Rehm – French horn (9)
Joseph Ognibene – French horn (9)
Paul Pitzek – French horn (9)
Stefán Jón Bernharðsson – French horn (9)
Katie Buckley – harp (9)
Julia Hantschel – oboe (9)
Matthías Nardeau – oboe (9)
Eggert Pálsson – percussion (9)
Frank Aarnink – timpani (9)
Eyjólfur Bjarni Alfreðsson – viola (9)
Guðrún Hrund Harðardóttir – viola (9)
Guðrún Þórarinsdóttir – viola (9)
Herdis Anna Jónsdóttir – viola (9)
Kathryn Harrison – viola (9)
Þórunn Ósk Marinósdóttir – viola (9)
Anton Miller – violin (9)
Geirþrúður Anna Guðmundsdóttir – violin (9)
Greta Guðnadóttir – violin (9)
Helga Þóra Björgvinsdóttir – violin (9)
Herdís Mjöll Guðmundsdóttir – violin (9)
Hulda Jónsdóttir – violin (9)
Ingrid Karlsdóttir – violin (9)
Júlíana Elín Kjartansdóttir – violin (9)
Kristján Matthíasson – violin (9)
Margrét Kristjánsdóttir – violin (9)
Margrét Þorsteinsdóttir – violin (9)
Pálína Árnadóttir – violin (9)
Pétur Björnsson – violin (9)
Sigrún Eðvaldsdóttir – violin (9)
Sigurlaug Eðvaldsdóttir – violin (9)
Sólrún Ylfa Ingimarsdóttir – violin (9)
Sólveig Vaka Eyþórsdóttir – violin (9)
Ólöf Þorvarðsdóttir – violin (9)
Andrew Barr – drums (11)
Clairo – background vocals (12)
Dario Bizio – double bass (14)

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