闘病する我が子への切実な想い、現代最高峰ギター奏者ロテム・シヴァン新譜『Heart Thieves』

Rotem Sivan - Heart Thieves

鬼才ギタリスト、ロテム・シヴァン新作『Heart Thieves』

Rotem Sivan Trio

現代ジャズ・ギターの第一人者の一人、ロテム・シヴァン(Rotem Sivan)の2025年の新作『Heart Thieves』がリリースされた。
コアトリオを組むのはニューヨークでも注目を集める二人の若手、ニュージーランド出身のベース奏者ハミッシュ・スミス(Hamish Smith)とNYブロンクス生まれのドラマー、ミゲル・ラッセル(Miguel Russell)。

ロテム・シヴァンといえば時には“奇抜”とも形容される圧倒的な独創性と、その基盤となる確固たる技巧性で注目を浴びる新世代のジャズ・ギタリストとして知られているが、今作を聴いてみると(非常にクリエイティヴで難しい演奏をやっていることは確かなのだが)楽曲構成も音色にも派手さは影を潜め、一音一音を愛おしむように撫で、フレーズを紡ぎ、外への発散よりも内へと向かう思考を滲ませるプレイとなっているような印象を受ける。──そして、彼の公式サイトのプレスキットに、その訳が詳細に書かれていた。

今作はロテム・シヴァンがここ1年半ほどで人生の重要な局面として経験し、感じたことが綴られている。いわば、これまでの作品以上にプライベートな内容の発露となっているのだ。

(1)「The Path」は妊娠中に約4ヶ月間安静を強いられた妻との思い出を描いている。流れるような美しいフレーズをテーマに置くが、即興のパートでは不安の感情が支配的に顔を覗かせる。
夫婦は2024年に、ジャケットにも写る娘ジジ(Gigi)と息子エデン(Eden)という双子の子どもを授かった。

(2)「Eden」は、生後悪化の一途を辿った呼吸器疾患に苦しみ、6ヶ月頃に悪性の脳腫瘍と診断され、今も治療室で生活をする息子への父親からのラブレターだ。
「毎日、幸せになれることをいくつかやるようにしています」とロテムは言う。病室の外の廊下を息子と歩く、自身がキーボードやギターを弾き、妻が歌う。夜、エデンが寝ている間に少し練習する。「でも、ほとんどの場合、ただ息子と一緒にいるようにしています」

アルバムのEPK

双子の楽しそうな笑い声で始まる(3)「Gigi」は、長女への想いを込めた美しい歌だ。ジジは生まれた時に呼吸をしておらず、医師たちが懸命に医療介入をしようとしたが結果は期待通りではなかった。そこで出産直後の母親の胸に抱かせたところ、産声をあげ、顔色はみるみるうちに赤くなった。医師たちはその光景を見て「ジジにはママが必要なんだね」と言ったという。
この曲にはゲストとしてサックス奏者オデッド・ツール(Oded Tzur)が参加している。抑制的かつ瞑想的な彼のサックスの演奏は今作全体のテーマにも合致し、楽曲に映像的な深い色彩を加えている。

それでも人生に希望を見出したいと願う(4)「In Hopes」、(6)「Lullaby」では、今作のプロデューサーでもあるカナダ出身のベン・ウェンデル(Ben Wendel)がサックスを吹く。彼のサックスは前述のオデッド・ツールとはまるで対象的で、力強く情熱的だ。

Rotem Sivan – guitar
Hamish Smith – bass
Miguel Russell – drums

Ben Wendel – saxophone (4, 6)
Oded Tzur – saxophone (3)

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